施術師就任のためのンゴマである「外に出す」ンゴマ(ngoma ya kulavya konze)一般についての解説はここを見ていただきたい。
さて、いよいよトゥシェの施術師就任のンゴマの日になった。ChariとMurinaの夫婦は16日から17日にかけて徹夜のカヤンバを主宰(私はナイロビからその日に帰宅した直後だったので不参加)、さらに18日夜から19日夕方まで、10キロ離れたBang'a1のMwainziとAnzaziという施術師夫婦の屋敷で、Chari本人のための徹夜のカヤンバと憑依霊シェラのための「重荷下ろし ku-phula mizigo2」(Chariはシェラとライカの施術を「外に出す」ためにすでに2度も、この大規模なカヤンバを受けており、これが三度目の正直)をノンストップで受けていた(こちらには私も参加で疲労困憊)。その疲れも取れぬうちの開催となった。トゥシェは20日から、Murina夫婦の屋敷に滞在し、この日に備えていた。20日の「招待の鍋」についてはここを参照されたい。
主宰者および主要人物 施術師: 男性 Chai wa Wima(Chariの施術上の父の一人), 女性 Chari wa Malau 患者: Tushe(本名 Umazi wa Kumbe)(from Kinango town) muteji(筆頭)3: Mbeyu (from Chiziyamonzo village) mwanamadzi(筆頭)3カヤンバのngui4: Mawaya wa Chumba(from Ngelenge village) 太鼓(筆頭): Kalimbo wa Mwero(from Gbwadu village) ゲスト施術師: Munyazi wa Shale(Mechombo)(from Mazora)
場所・日時 開催場所: Murina & Chariの屋敷 日時: Nov.22,Sat, 1991― Nov.23,Sun, 1991
特記事項 トゥシェにとっては、初めての「外に出す」ンゴマであったが、そうした場合の通例とは異なり、ムルングだけではなく、同時に憑依霊ドゥルマ人5と世界導師11も出される、欲張りなンゴマであった。瓢箪子供も、ムルングの瓢箪に加えて、ドゥルマ人の瓢箪と世界導師の瓢箪の3つの瓢箪が授けられた。いずれも超大物の霊なので、こんなに一緒くたにできるのか、私ですら若干疑問に思った。
Chariは今回の「外に出す」ンゴマは、文字通りンゴマ(ngoma「太鼓」)によって行うことにしていた。彼女によると、カヤンバ楽器による演奏は、もともと隣接するディゴ人のもので、ンゴマでやるのが「3つのカヤ(kaya tahu)」の本来の伝統なのだと。実施にあたってもいろいろ昔ながらの「やり方」の復活が試みられていた。野心的なンゴマだったとは言える。しかし、結果は以下の日記の記述(こちらは私の個人的な見立てなのだが)にあるように、大きな盛り上がりに欠ける残念な結果に終わった。
(日記より) ただしこの日記のンゴマの部分は翌朝(11月23日)帰宅後に作成。
Nov. 22, 1991, Sat, kurimaphiri
朝9時MurinaとChari28たち寄って、自転車で今からChibaoni34までmurandze35をとりに行くという。遠い。1時過ぎに戻ってきたが、自転車が途中でパンクして押しながら帰ってきたらしい。すぐにngoma36の準備にとりかかるという。...(中略)... 午後7時にChariの屋敷へ行く。Munyazi38が来て、ndonga39にushanga43を巻く手伝いをしている。かなり時間がかかりそう。女たち、例によって(きまりどおり)歌いながら作業。このため、余計に遅くなっているのではないかと思ってしまう。Murinaたちは太鼓で遊んでいる。もう一組の女たちは、庭の隅でチャパティを作っている。今日はやけに手際がよいと思っていたら、このチャパティはmakoloutsiku44のためのものではなく、夕食(wari45とmaharagbwe46の)後にすぐ出てくる。chai ya ngoma47 というのだそうだ。
太鼓の奏者たちがやってくる。Kalimbo(実は太鼓の名手)も来る。Mwanza氏も夫婦で来る。ちょっと悪い予感(結果として一部は予感的中) ndonga48の準備が予想通り遅れ、ngomaは12時近くになって、ようやく始まった。始まったのは良いが、まったく盛り上がりに欠ける。MwanzaとKalimbo、それに本来呼ばれていた人たちが、互いに対抗し、主導権争いのような格好になる。Kalimbo、とくに仕切りたがる。いわゆる船頭多くしての状態。しかもあまり上手でない者が多く、すぐ途中で演奏が乱れてしまう。また歌もあまり歌える人がおらず、さらに一つの曲が終わる度に、次を何にするかでまたストップ。 この間、Murinaたちは小屋のなかで別の作業に従事(ndongaの準備、瓢箪一つ制作するのも大変なのに3つもではたいへん)。さらに後でわかったのだが、Murinaは途中で屋敷を抜け出し、muzuka49にmafufuto51を採りにいったりもしていたらしい。muwele53がなかなかkuvina55しないのを、妖術のせいだと考え、muweleをmafufutoで燻して、妖術使いに奪われた「汚れ50」を取り戻そうとしていたとか?とにかくMurinaもChariも始まってから数時間、ngomaの場には姿を見せなかった。....結局、makoloutsiku44抜き(これ、けっこう辛い)で、途中からMurinaはkayambaに変更するよう指示。kayambaに変えてからも、golomokpwa56させようと焦ってか、最初からkusuka57抜きで早いリズムをうつ(でもうまくいかない)、なんてことも。 例によってChariが自らgolomokpwaし、Murina相手にmutsai58が居るなどと告げるが、この掛け合いもどことなく芝居がかってわざとらしく見える。jamba59でMunyaziが大golomokpwaするなどの面白いこともあったが、全体に盛り上がらず、Tusheは占いを打つこともできなかった。その後、mihini17では自らmuhiをkuvunza60することはできたが、ndongaのkufitsa61は行われなかった。 Chariはkayambaを舞台に見立てるなら、そこでのplayerとしては卓越していて、すぐれたパフォーマンスを見せる。しかし施術師は同時に演出家でもなければならず、muweleのパフォーマンスを上手に誘導するよう、全過程を仕組む必要がある。Chariたちに欠けているのはこれ。Mwainzi氏夫妻62は、この点でChariよりも上を行っていると思う。 人々が、muweleは夜中くらいまでに踊らなかったら、最後まであまり踊らないものだ。うまくいくときは最初のうちからよく踊ると言っている。前半のngomaの不手際が、今夜のkayamba全体をダメにしてしまったような気がする。Chari,Murinaの不在(別作業)、普通ならMawayaがngui4として歌をリードしていたはずだが、に加えて、MwanzaとKalimboが正式に呼ばれてやってきていた奏者たちを差し置いて、ngomaを仕切ろうとした点に問題があったように思われる。Chariが今日のkulavya nzeで男性施術師として選んだChaiは、まったく目立った働きをしなかった。
Nov. 24, 1991, Sun, kpwisha
疲れが残っているのでぐだぐだしていると、午前中、MurinaとChariが自転車を引き取りに来る。ChariはTusheの占いがうまくできなかったのはmutsaiのせいだと言う。やっぱりそうくるか。muhiはTusheは教えられなくても自分でkuvunzaした。かりにndonga隠しもやっていたとしても、ngari waona83という。ngomaはうまく行ったと言いたいのか。 Chariは昨日、徹夜の後にもかかわらず眠れなかったと言う。床にkuchiを敷いてあげるとその上に布を広げてうとうとしている。二人とも昼前に帰っていく。
(Nov. 22, 1991のフィールドノートより)
例によってフィールドノートをほぼそのまま転記したテキストをそのまま貼り付ける。ただしこのフィールドノートは、徹夜のンゴマの際に作成した簡単なメモをもとに、翌々日(24日)作成したもの。ナンバリングの一部(憑依霊の歌の)は転記の際に付与。フィールドノートそのものの記述に手を加えないため、現地語なども注釈の形で補足説明することにしている。(DB...)は後にフィールドノートに紐づけた書き起こしテキストの、該当箇所を示す番号。
【Tusheのngoma(kulavya konze)】 (DB 4083-4121)
準備作業 昼過ぎより、女性たち(Chari, Munyazi38, Mbeyuらの女性ateji) marero84の準備 およびushanga43をndonga39に巻く 歌を歌いながら作業せねばならない ngomaの当日におこなわねばならない →案の定、この作業が長引きngomaの開始が遅くなる 他の女性たち(Tusheの親族女性やChariの娘たち、他のanamadzi)はmahamuri85やchapati86の準備
男たちは ngoma をkugota87 (というか、遊んでいるだけにしか見えない)
23:10 ziya25 の用意完了
23:20 Murina、marashi88をバケツの水に注ぎながら mwalimu dunia11などに対する makokoteri89(なんちゃって「アラビア語」で)
23:25 Tusheをkogesha90する Murina、左手でTusheの右耳をもって、Jamba59、dunia11 に対し ngomaを開く旨告げる(「アラビア語」なので内容はわからないが)
23:50 ngoma 開始 小屋の中で始まる。一曲目 lombe...のngoma演奏
二曲目 nikalole anangu... で小屋の外に出る。
結婚式の花嫁の導き出しと同様に、leso92で覆った行列の形で。 行列の先頭はChari、ChariにぴったりくっつくようにTushe chihi93の周りを反時計回りに二周した後、muwele は着席 Tusheの隣に Mbeyuが座り、いっしょにkuphunga94される
Mwanza氏、Kalimboの2人の老人がngomaを仕切る格好になる muweleの反応は鈍い
Chariはkayamba107に切り替えることも考えているようだ
Chariはndongaの準備でngomaの場を離れ、小屋の中で作業
Murinaも何をしているのか姿が見えない。
ngomaは統制が取れておらず、まったく盛り上がらない
瓢箪子ども制作 02:15 小屋の中でMurina&Chari、 ndonga に対するmakokoteri (最後の mwalimu dunia11に対するもののみ録音) 世界導師の瓢箪に対する唱えごと (DB 4087-4091)ドゥルマ語テキスト
maroho108(=mapande20)はUmazi(Tushe)とChitiの夫婦によって ngomaが始まる前に前もって入れられていたらしい トゥシェの夫に瓢箪子供を示し、その後ンゴマの場に移動 (DB 4092)ドゥルマ語テキスト
02:20 Murina、ngomaは中止し、明日の朝再開すると宣言。Kayambaに切り替える。 このことでngoma奏者たちとちょっともめる。
02:35 kayambaに切り替えて、chitsimbakazi64
02:40 Murina、chivo109に炭を入れ、muzuka49のmafufuto51をkufukiza52
ngomaが失敗するようにと、mutsaiが昨日か一昨日にmuzukaにmuweleをkuwala110したかもしれない。それを取り戻すため。どうやらMurinaはngomaが盛り上がらず、muweleもgolomokpwaしないのは妖術による妨害だと考えていたらしい。
kayambaに移行後、muweleはよく踊る
おそらく違いは、ngomaは一人のリーダーが取り仕切らず、混乱していたのに対し、kayambaはngui4のMawayaが、一人で次に歌うべき歌を決め、間髪おかず率先して歌いリードしていたこと。従ってより集中力が高まる?
ngomaのときは、一つの曲が途中でリズムが乱れて中断したり、次に演奏する曲をめぐって議論が起こったり、といった具合でこれでは盛り上がりようがない。また多くの人々はngomaの曲をしらず歌で唱和できない。
ジャバレ(世界導師)で大騒ぎ 03:50 jabale(=世界導師) に始まる一連の歌 ジャバレで憑依 (DB 4093)ドゥルマ語テキスト
とりわけJabaleで、Tushe、golomokpwa。Murinaからmarashi88をとりあげて飲む。 Mbeyuも同じくgolomokpwa。続いてChariも。 トゥシェは自分で水を頭からかぶる
奏者たち、歌をしらない チャリ自身がリードする トゥシェ再びgolomokpwa、Murina「アラビア語」で唱えごと Mbeyuも再びgolomokpwa MurinaはTabuに手伝わせ、スケッチブックの憑依霊の絵を2人に見せている。 Tushe、頭から水を何杯も被る。
チャリ(ジンジャ導師=ガンダ人)による占い Chari、Chiluuを被って現れる(憑依状態) 例の占いを始める。→kuphendula111の必要 チャリの霊による占い (DB 4095-4111)ドゥルマ語テキスト nasikira kululu112...の歌とともに、杖をもって踊りだす
04:15 kalumeng'ala6に始まるmuduruma muwele踊るが、それだけ カヤンバ再開 (DB 4112)ドゥルマ語テキスト 04:35 mwanamulungu113を再び kusuka57抜きで、いきなりkutsanganya114から
トゥシェ占いの試練に挑戦 04:55 再びngomaにもどって mwanamulungu、トゥシェの占いテスト トゥシェの占いテスト (DB 4112-4115)ドゥルマ語テキスト
lungo115を与え、Chariまず自分で描いてみせ、次いでMuwele に描かせる。これを何度か繰り返した後、mapeni116を置き、誰が病人であるかを言い当てさせる。 Tushe、kaphana mukongo117 などと言う。 Chari, 置いたのは病人の金ではないから Tusheの答えで当たっているという。
トゥシェ、musambala97で再度挑戦。占い断念。
ジャンバ導師で大騒ぎ 05:45 kayambaでjambaを打つ→ Tushe yugolomokpwa Munyaziがいきなり激しくgolomokpwa ムニャジの憑依: ジャンバ導師 (DB 4116-4118)ドゥルマ語テキスト 両手を飛行機のように広げて、そのまま倒れ掛かる
06:00 Munyazi、Murina とchiryomo118でやりとり。 スケッチブックの絵を見せられると、それをもって喜んで踊りまくる。 占いを打ちたがる。
最後に Munyazi、小屋のなかに連れ入れられる。 Tushe、すっかりしらけてしまった様子。
トゥシェに瓢箪子供授与 06:10 ngomaでmuduruma 演奏 (DB 4118) Chari、Chai(今回のパートナーの男性施術師)、MbeyuとTusheの4人は 白い布ですっぽりと覆われる。その下でTusheに mwana wa ndonga が 与えられる。 もちろん見物している我々には見えない。
[瓢箪子供を授けられたトゥシェさん。ちょっとしんどそう。後ろで太鼓を打つのは老太鼓奏者カリンボさん]
06:20 mushombo119が出る。 ngoma の演奏が続く中、全員でsufuria120一杯を食べつくす。
06:30 mwana wa ndonga39の授け、終了。
草木採集試験 06:45 再び、mulungu を演奏、mihini121 に出発する。 Chari、wimbi122、灰、mafuha123、 kuku mwiru124、kuku mweruphe 用意 wimbi は各々の木の周りに撒くためのもの。 同じchikaphu125に、Tusheに授けられた mwana wa ndonga とChari のmwana wa ndongaを入れる。 06:52 Tushe、立ち上がって踊る。 Chikaphuを抱えて出発。 Chaiが先頭。しばらく進んだところでTusheが先頭になる。
最初のmuhi=murindaziya126 (mulungu) ムルングの草木に対するkuhatsa (DB 4119-4121)ドゥルマ語テキスト
kuku 黒、白、ともに爪を切ってその血をmihiと、その根元に置かれたndongaにつける。 Chai、Chari それぞれがkuhatsa127 uchi128を垂らしながら、再びkuhatsa 葉のついた枝と根をとる その他のmihiは、Chai、Chariが先に教えてやっている。
mudurumaのmuhi= muphingo129 同じ手続きが繰り返される。
mwalimu dunia のmuhi= muzyondoheranguluwe130(mwehani131で)
ここでもkuhatsaの手続きが繰り返されるが、uchiの代わりにivu132とmafuhaが注がれる。 イスラム系の霊は uchi128を好まない。
07:50 屋敷に戻ってくる
Tusheを座らせて、再びngoma Dena79(Makumba)、mudigo133、shera81 と演奏されていく。
09:05 mulunguを最後に打って、終了。 Chai がmakokoteriする。
09:30 朝食(mahamuriとchai)が出席者全員に振舞われる。
09:45 fungu134についての談判始まる(私はここで帰宅)
(Nov.24, 1991の朝、やって来たチャリ夫妻による情報) Nov.23 13:00 に人々解散 funguの分配は、ChariとChaiの二人の施術師は 130シリングずつ。 Munyaziは40シリング、Kalimboは30シリング受け取った。 残りの funguの分配をめぐって、anamadziたち、喧嘩しそうになったという。
3人の大物憑依霊を同時に「外に出す」という点で、かなり気合のはいったンゴマだったはずなのだが、冒頭で述べたように、若干盛り上がりに欠け、結末も見事なフィナーレというにはほど遠かった。日記にもおなじ感想を書いているが、その原因を整理しておきたい。
ンゴマ(カヤンバ)では、曲目の組み立てと、そのスムーズな継起が、ムウェレが機嫌よく(?)踊れるか(憑依状態になれるのか)にとって、意外と重要だということが、改めてわかった。ムウェレが上手に憑依状態に入り、普段の彼/彼女にはできないような(しないような)振る舞いを見せる、ここにンゴマの結構重要なポイントがある。この日のンゴマの最大の難点もここにあった。
ChariとMurinaの弟子(anamadzi)たちのほとんどはカヤンバに熟練した奏者であり歌い手だったが、太鼓については素人同然だった。そのため、地域の太鼓奏者を別途招かざるを得なかった。彼らは、Chariたちのアナマジ(弟子たち)と、ともすれば対立しがちだった。
太鼓でやる!ということで近隣の「かつて太鼓で鳴らした」老人たちがやって来た。私の初期の調査からの良き相談相手だったカリンボ老人や、同じく太鼓打ちだったマンザ老人である。彼らがンゴマの流れ自体を仕切りたがった。
カヤンバに慣れた女性たちは、ンゴマの歌の多くを知らず、独唱者の先導に、うまくフォローできなかったので、歌が盛り上がらなかった。
ChariとMurinaが瓢箪子供作り、その他の作業で、夜中過ぎまでンゴマを主宰できなかったのだが、そういう場合に、ちゃんと進行を任せられる人物(通常であれば、歌い手筆頭の弟子Mawaya氏)がいるべきなのだが、今回は外部から来た人々が仕切りたがり、彼らのあいだに意見の不一致が見られた。曲が終わるたびに、次に何を演奏するかでもめたりしては、うまくいくわけもない。Chariのパートナーを務めるはずだった男性施術師Chai氏は、進行を手配するうえで進行役の役目を果たさなかった。
日記の方に、Mwanza夫妻がやってきているのをみて「嫌な予感」がしたと書いているが、実は当時、ChariとMurinaはこのMwanza夫妻が自分たちを攻撃している妖術使いだと思い込んでいた。ChariはMwanzaの母系親族であり、その伝手でMwanzaたちの土地に住まわせてもらっていたのに。詳しくは、ややこしい話なので、別の機会に譲るが、結局このンゴマの約一ヶ月後に2人はMwanzaとその第4夫人をサブ・チーフの法廷に訴えた、と言うとその深刻さがわかるだろう(この妖術告発はチャリたちがあまりにも込み入った作戦―表面的には妖術告発という形をとらない―を立てすぎたために不発におわり、チャリたちは名目的な勝ちはとったものの、毒の試罪法まで進むという目的は達せずに終わった)。とにかくこの時点でMwanza一族とChariたちの関係はすでにギクシャクしており、それがこのンゴマに影をおとしていた(特に観客にとってほとんど興味をもてそうにない妖術使いについてのChariの占いの場面。Murinaがずっと興奮していきり立っており、ほとんどの人がなんとなく白けていた。) 私は、はっきり言って、Mwanzaさんたち、なんで来たの、やめてー、という感じだった。
やや遠方のMazoraからやってきていた客人のMunyaziは、その前年に最初の「外に出す」ンゴマを受け施術師になっていた。その施術上の父と母はMwainzi氏とAnzaziの夫婦62であったが、この2人はこの年Chariにライカとシェラを「外に出す」ンゴマを主宰した、Chariの施術上の父と母でもあり、したがってMunyaziとChariは施術上の姉妹。そのよしみでの今回の訪問であった。Munyaziは前年ムルングを出して施術師になって以来、非常に野心的で、今年もすでにシェラとライカを外に出してもらい、今やさらに世界導師も外に出してもらいたいと思っていた。そうなるとChariが世界導師については彼女の施術上の母になる。というわけでChariの新しい施術上の子供トゥシェに、あからさまにライバル心むき出しで、今回のンゴマでも、アピール強すぎだよー、なところがあった。トゥシェが主人公として憑依状態になるべきところで、必ず彼女も憑依状態になり、まわりの関心を自分に集めてしまい、トゥシェがちょっと白んでいるような場面が何度か見られた。 こうしたことは、たいていのカヤンバやンゴマにもつきものなのだが、今回の盛り上がりにやや欠けるンゴマでは、かなり浮いた感じになっていた。
通常の徹夜のカヤンバは、カヤンバ奏者たちや主宰する施術師は、夜明けにライカやシェラ、マサイなどを演奏し、ヤケクソに盛り上がるのだが、「外に出す」ンゴマでは最後がムルングなので、こうした音楽的盛り上がりはあまり期待できない。しかし、それ以上のスペクタクルが参加者の感心を高める。それが3つのテスト、とりわけ瓢箪隠しのテストである。通常の順番では、最初に瓢箪探しが行われ、見事に成功した場合、ムウェレは拍手でンゴマの場に迎えられる。そしてそのままムルングの「最後の草木muhi wa mwisho」を見つけられるかどうかのテストが行われる。この「最後の草木」をクライマックスとする、様々なムルングの草木採集とそこでの施術師によるクハツァ(ku-hatsa127)は、ある意味フォーマルにムウェレに施術師の資格を与える手続きとなっている。なにしろ草木の知識とコントロールあっての施術師なのである。そして施術師としての能力をまさに人々に披露して見せるのが、人々の前での占い(mburuga)という最後の見せ場である。 しかしこの日は、夜明け前に、まだ瓢箪子供の授与すらする以前に、占いのテストがあった。それは残念な結果だった。その後に瓢箪子供が、被された布の下で単に手渡されるという形でおこなわれ、最後が草木採集だった。その後、まるで通常のカヤンバ(ンゴマ)の場合のように、脈絡なくライカやシェラが演奏された。まるで「外に出す」施術師就任のクライマックスを打ち消すみたいに。これでは、いやー、何のためのンゴマだったんですかぁ、である。
なんだかンゴマ評論家みたいになってしまった。ごめんね。
とここまで読んだところで、ふと疑問に思った。なぜChariは、ムルングとドゥルマ人と世界導師を同時に「外に出す」などというやり方をとったのだろうか。まず、ムルングを外に出し、施術師として活動させた後に、ドゥルマ人、世界導師と順に、それぞれ別のンゴマで出すという、普通のやり方にしなかったのだろうか。もちろん3回のンゴマを一回で済ませるという方が、資金的には負担が小さいのはわかるのだが。そしてなぜ瓢箪子供を探し出すという見せ場を省略してしまったのだろうか。トゥシェにとっては、これがムルングを外に出す最初のンゴマであったにもかかわらず。
で、思い出したのがChari自身の経歴である。Chariは最初、普通にムルングだけを外に出してもらっている。しかし、半年間は順調に施術師の仕事が続いたのだが、それが「蓋をされて」(あるいは「覆われて」)しまい、重病になった。「誰もがこの人はもう死ぬだろう」と覚悟するほどの重病だったという。そしてChariの前に世界導師自身が大蛇の姿で現れ、Chariに、世界導師の草木を教えた。世界導師がChariの癒しの術を覆ってしまった理由は、世界導師の癒しの術を出してもらいたかったからなのだった。その後、Chariはマリアカーニの町に住む施術師Fupiのもとで治療を受け、Fupiによってムルングとドゥルマ人と世界導師の3人の憑依霊について「外に出す」ンゴマを主宰してもらった。そのとき、Chariはすでにムルングは出し終えていたのだが、Fupiの下で、再度「出し直し」てもらったのだった。そして同じンゴマで同時に、ドゥルマ人と世界導師を「外に出し」た。すでに最初のムルングを「外に出す」ンゴマで、隠された瓢箪子供を見つけ出すことを済ましているので、Fupiが主宰したそのときのンゴマでは、瓢箪子供を隠すテストは必要なかった。
とすると、今回のトゥシェと同じじゃないか。もしかしたらChariは世界導師と憑依霊ドゥルマ人(この2人の霊がトゥシェの病気を引き起こしている張本人の最も厄介な霊だった)を外に出すンゴマを主宰するにあたって、自分自身が受けたンゴマの手順を踏襲しようとしたのではなかったのだろうか。今となっては確認するすべもないが。
なぜ当時、そしてこれを書いているときに、すぐにこれに思い当たらなかったのだろうか。自分でも呆れてしまうしかない。
「外に出すンゴマ」に連続して参加したため、今回のンゴマは録音よりも、ゆっくり観察する方に力を入れた。そのため歌の録音は一部のみ、というのは嘘で、テープレコーダーの調子が悪く、無音録音に終わったり、回転していなかったりと散々だったのです。 歌の日本語訳は、あくまでも私はこんな風に読み取りましたというだけのもので、正しさを主張したりはするつもりはない。というか、ほとんどの歌ははっきり言って何を言っているのかわからないのが正直なところ。歌の中でしか使われない単語で、ドゥルマの人でも意味がわからないというものも多い。しかも歌詞は固定したものではなく、歌い手が即興でアレンジしたりしているので、十全な理解など、フィールドで早々に放棄してしまった。というわけで、以下の訳は、ご参考までにとどめておかれたい。
ムルング子神の歌 4083 (ムルング1)
祈って、私のために祈って、あなた 祈って、私のために祈って、あなた 祖霊に祈願して 私のためにムルングに祈願して 祈って、私のために祈って、あなた
4084 (ムルング2)
私はどうしたらいいでしょう? お母さん、私の子供たちに会いに行かせて、私の友よ ムァチェ川まで、私の子供たちに会いに行かせて
4085 (ムルング3)
ああ、祈れ、癒しの術を求めて祈れ
4086 (ムルング4)
「すっかり」tsetsetse ツェツェツェと繰り返し歌われているところをお聴き取りください。どちら様かの長老は、こっそり独りで食事する135 なんと、トウモロコシの練り粥、一握りすら残さない すっかり食べ尽くす
世界導師の瓢箪子供に対する唱えごと 4087 (02:15) 世界導師(mwalimu dunia)の瓢箪子供に対する唱えごと(途中から) (そろそろ瓢箪子供が仕上がった頃だろうと思って小屋に行くと、すでに唱えごとが最後の一つに差し掛かっていた。ムリナに続いてチャリが唱えごとをする。聞き手は私ひとり(もちろん本当の聞き手は今や瓢箪子供として現前した憑依霊たち)。 ムリナによる唱えごと
Murina: こうして今、私たちは彼女(ウマジ)を正します。彼女に何を示してでしょうか。道をです。彼女に息を出します。しかし、癒しの術は、あなた方の癒しの術です。この世に、人から癒しの術を与えられる者などおりません。癒しの術を全能の神より与えられる以外には。 今、ここにおられるあなた、私はこの癒しの術の瓢箪を差し出します。癒しの術は月のごとく光ります。癒しの術は彷徨します。癒しの術は油です。癒しの術は収穫です。遠くの人を引き寄せます。 ウマジが占いを打つと、彼女にただしくお語りください。私は(ウマジのところが)いつも(人で)一杯であることを望みます。あなたが本当に癒やし手であるかどうか、私にはわかるでしょう。私はさらに一層お調えいたします。調えられるあらゆるものを、同様に調えましょう。なぜなら、私は隣人を、兄弟を、友人を得たのですから。 今日、今、私はあなたをウマジに与えます、あなた世界導師よ。夜に昼に訪れ、ウマジに幸運をもたらし、彼女に癒しの術の夢をお見せください。
4088
Murina: 彼女のために繁く占いを打ち、彼女のために包み隠さずなにもかもをお話ください。これこそ、私が望んでいることです。私にはこれ以上申し上げることはございません。これが私の言葉です。他のことごとは、チャリが言い尽くしてくれるでしょう。でも、私は、癒しの術をウマジの身体のなかにとどけるよう、あなたをお遣いいたしました。 チャリによる唱えごと Chari: ビスミラーイ、ラフマーニ、ラヒーム.... さて、私はお話しいたしますが、あなた世界導師と議論したりはしないでしょう。あなたバラ・ナ・プワニ27。私としてはあなたと議論したりすることはなかったでしょう。私個人は、悩み事と不安に見舞われました。誰もがみな、「彼女は治らないだろう、彼女は死ぬだろう」と知っていました。私は、他人に占い(mburuga136)を打ってもらいはいたしません。あなた自身がやって来て私にお話になったのです。だって、誰もがチャリは今日、今にも死ぬだろうと知っているのですから。 そう。私はあなたご自身に、やって来て、ほらこれが癒しの技だよと話していただいたのです。私は、行ってあなたご自身に癒しの術(uganga18)を授けられました。でもそれでは十分じゃなかったのです。
4089
Chari: 私はそんなわけで世界導師の癒しの術を盗みはしませんでした。私はそれを(治療上の)お母さんフピ・ワ・ンゴメと、マシュディ・ワ・マンガレによって与えられました。私は世界導師の瓢箪を与えられました。世界導師の瓢箪とは、これです。これをお母さんフピ・ワ・ンゴメにクハツァ(ku-hatsa127)してもらいました。そしてこう言われたのです。もしあなたが友人が苦境にあるのを見たなら、今度はあなたがその人に子供(瓢箪子供)を与えるように、と。今日、私はウマジ・ワ・クンベにこのバラ・ナ・プワニの子供を与えます。 あなた世界導師、ジャンバ導師、ふたりとも同じ皆さんです、あなたカリマンジャロも。皆さんは全員、山々のなかに、大きな木々のなかに、ゾンボ山137におられる。皆さんはウマジにとり憑いた。皆さん方がウマジに取り付いたのは、昨日一昨日(過ぎた過去)のことです。でももしかしたら彼女はまだ準備が出来ていなかった。でも今日、今、ウマジは悔い改めています。そしてもし本当に、あなた世界導師の仕業なら、私たちが望んでいるのはつつがなきことです。そしてあなたがご存知の仕方で、つまりウマジを一杯に満たすことで、占いをなさることです。なぜなら、あなたがいらっしゃるところどこでも、繁栄すると私は聞いております。
4090
Chari: 今、そう、私はウマジにあなたが昼も夜も占いをお与えになるよう望みます。施術師は食事もせず、眠らず、自分の家にじっとしていることもない、昼も夜も動き回る(そうありたいもの)。でもウマジが、病気のせいで道をさまよい歩き、世界をさまよい歩くのには一休み。今、そう、ウマジは癒しの仕事を欲しています。彼女に、占い板をお与えください。そしてウマジが眠るときには、癒しの業の夢をお見せください。眠るとなにかに組み敷かれる夢を見るのも、死体の夢を見るのも、なしです。とんでもない。 今、ウマジは悔い改めています。今、今日、私たちは彼女に癒しの術を与えます。 私はあなたを盗んではおりません。私はあなたをお母さんフピ・ワ・ンゴメとマシュディ・ワ・マンガレによって与えられました。そして、こうして、つつがなくあります。私は、もし私が友人が苦境にいるのを見たら、あなたを与えるようにと言われました。そして私があなたを与えたら、私が申し上げる通りに私に応答なさってください。ちょうど私があなたに申し上げておりますような具合に。私は癒やし手ではございません。癒し手はムルングです。私の唾液(言葉)とムルングの唾液(言葉)がともに眠りにつきますように(静かに定着しますように)。
4091
Chari: 彼ら(ウマジの一族)の祖霊たちと、私たちの祖霊たちが、いっしょに眠りにつきますように(騒ぎをおこしませんように)。ムリナの一族の祖霊たちも、一緒に眠りにつきますように。キティ(ウマジの夫)の一族の祖霊たち、ムァキティの一族の祖霊たちも、ともに眠りにつきますように。皆さんでいっしょに、彼女をお見守りください。ウマジに癒しの術をお与えください。これこそ、喜ばしき良きことです。ウマジが癒しの術を外に出されたのに、再び何もせずに座っているといったことがありませんように。 あなた世界導師、あなたは何もせずにいることがどういうことかご存知です。あなたの仕事は仕事を割り振ることです、あなたジャバレ29、あなたメッカを徘徊する者、メッカのジャバレ、メッカのスディアニ16。皆さんは全員一体です。ジャンバ導師ともごいっしょです。 今日、今、私は立ち止まってウマジに癒しの術を与えます。そしてウマジと癒しの術が輝きますようにと願います。病気はダルマワシのごとく飛び去れ。脚は家の土台の支柱のごとく立て。腕は握りこぶしのごとくつかめ。頭は木の椀のごとくまっすぐ立て。占いは、しっかり、良好に打つこと。私の言葉は以上です。皆さん。
4092 ウマジの夫キティ(Chiti)氏が呼ばれて入ってくる。瓢箪子供3つ(ムルングの瓢箪、ドゥルマ人の瓢箪、世界導師の瓢箪)をキティに示す。ウマジが使用する占いの瓢箪キティティ(chititi138)は、とりあえずチャリのものを使わせる。ウマジ自身のキティティは後に制作して与えることに。ンズガ(nzuga139)もキティがウマジ用のものを制作するまでのあいだチャリのものを使わせてあげることに。
Murina: そのキティティは彼女のものにはならないの? Chari: そうよ。だって彼女のはこれから作るんだもの。私も最初は人のを与えられたわ。メズマさんのをもらったでしょ。 Mu: でも、ンズガ(nzuga)はあげるでしょ。 C: ええ。でもあのンズガは、彼女が家に持って帰って家で鳴らせるようにってあげるのよ。 Mu: じゃあ、お前が分けてあげるんだ。 C: (Chiti氏に向かって)あんたが作ってあげるまではね。 Chiti(husband of Tushe): でも中に何を入れたらいいか教えてください。 C: トウアズキ(トゥリトゥリ t'urit'uri37)の粒を入れるんですよ。 キティ氏、ムリナ、チャリ、私、小屋を出てンゴマに加わる。 午前2時20分、ムリナは人々に太鼓は止めて、カヤンバ演奏に変更するよう命じる。 午前2時35分、カヤンバ演奏、キツィンバカジの歌から始める。
02:20~03:50 録音失敗(pause解除に失敗、テープ走行せず)
(ジャバレで憑依) 4093 03:50 ジャバレ導師のku-sukaの途中から録音再開
(ジャバレ導師の歌・クスカ57)
ごめんください、エエ、導師よ、ごめんください、エエ 今日、ごめんください、導師よ、ごめんください、エエ 私は何事もございません、私は扉を開きます、私です 王、ジャバレの息子 今日は、導師よ、いらっしゃい 師よ、スルタンよ
(トゥシェ、いきなり憑依状態になってしまう。ムリナからローズウォーターの瓶をとりあげて自分で飲む。続いて付き添いのムベユさんもgolomokpwa。続いてチャリも。 トゥシェは自分で頭から水を被りはじめる。)
Chari: あんた、かき回して、皆さん、かき回して(クツァンガーニャのリズムで) Kalimbo(太鼓の名手の): ほら、皆さん、かき回しなさいな。皆さん方がご存知のやり方で。 (チャリ、自ら先導して歌い始める) (ジャバレ導師の歌・クツァンガーニャ) ああ、私は食われているよ、私は、ああ スルタン、ウェー、エー 今日、今、スルタン、ホーワー 内陸部(bara)のスルタンがやってくる スルタン世界導師の
(人々歌を知らないらしく、すぐに唱和できない)
Kal: なんだよ、あなた方3人だけかい。他の人たちはどうなってるんだ! (人々しだいに唱和し始める)
4094 (チャリ、別の曲を先導して歌い始める) (ジャバレ導師の歌)
押せ、押せ140、アラブ人 押せ、(施術の)仕事人、ジャバレ
(トゥシェ、また憑依。ムリナは彼女に唱えごとを始めるが、それは彼独自の「アラビア語」でだった)
Murina: ズルー、ズルー、(意味不明な言語が続く)
(ムリナがトゥシェに唱えごとをしている間もカヤンバの演奏は続く) (ジャバレ導師のもう一つの歌 この歌の冒頭部にムリナの「アラビア語」の唱えごととトゥシェのやりとりが一瞬はっきり聞こえている)
あなたの出身地から、おいでなさい あなたの出身地から、おいでなさい 導師よ、あなたの出身地から、おいでなさい わたしは雲とともに去り 雲とともに戻る わたしは太陽とともにやって来る、蝿追いハタキ141 ジネ[^jine]よ、あなたの出身地から、おいでなさい
(ジンジャ導師の歌) (これはチャリが作詞作曲(夢で憑依霊本人に教えてもらったという)した曲なので、しばし誰も付いてこれない。しかしすぐに唱和するところはさすが)
わたしは憑依霊を扇ぐ、ジンジャ導師です 我が子ジンジャは癒やし手 ジンジャ導師がいます 我が子ジンジャは癒やし手、ウェー さあ、今日は(以下2語ほどよく聞き取れない) 結構!いっしょに行って仕事をしましょう わたしは内陸部にも、海岸部にもいます 癒し手です 私に蝿追いハタキを渡して、祈らせてください
Chari: 皆さん、カヤンバを打ちなさいってば! Murina: あんたたち、打ち止めるのかい。
4095 (ムリナはトゥシェに対する「アラビア語」の唱えごとを続ける) (ムベユ(トゥシェの付き添い)も突然憑依)
Mbeyu: ヒイイイ、ヘエエ、ヘエエ Chari: お静まりなさい、お静まりなさい 人々: 降りてきなさい、降りてきなさい (ムリナは「アラビア語」でムベユと議論を始める。トゥシェとムベユの2人に、彼が描いた憑依霊の絵を見せながら、なにやら説明している(「アラビア語」で)
(憑依状態のチャリの占い) (チャリは演奏者たちにカヤンバ演奏を止めるよう指示。彼女自身も憑依状態、なんどもため息をつきながら占いに入っていく)
Chari: ホーフィ、ホーフィ(ため息繰り返し)...(周囲の騒音で聞き取れない)... 私はおしゃべりは嫌いなんだよ。 Murina: おしゃべりではありません。仲間に話してあげることは、まさに良いことです。 C: さて、私に何を話せと言うんだい、皆さん。私は見物に来ただけだよ。もう帰ります。 Benyawa: あなたがここに見て取った問題、その太陽ですよ。だって病気の子供がいるんですよ。 C: なあ、私が問題を見てとったとしても、私が話すと、皆さん方は私は口が悪いやつだと言うんじゃないかい。
4096
Murina: まずその問題そのものについて話してしまってくださいよ。 Man1: 問題そのものを話してくださいよ、お母さん。私たちは急いでません。 Chari: 急いでないだって? Benyawa: さて、どんな風に急ぐっていうんですか?私たちが注文された仕事が私たちがする仕事で、私たちはそれをするだけです。 C: じゃあ、あんたがた、その仕事を追求しますっていうんなら、やってちょうだいな。私は… Man2: もしかして何か見たんだったら、お母さん、私たちに喋ってください。 C: 私ゃ、何かを見るのはやめたんだよ。あんた方を見ることもね。 人々: ああ、私たちに今ここでお話してくださいよ。 Ben(Benyawa): 私たちを見ることはともかくね。私たちはここにいます。でもある者たちは病人なんです。私たちには遠くのトウモロコシの芯があります(「外からは見えない隠れた病気があります」の意味) C: そいつが言うには、もう人々を見るのは止めるってさ、あんた。 人々: でも、もしお母さん、あなたが見たんだったら、もしかしたらですが、私たちにお話ください。私たちは知らないのですから。 Ben: いいですか。病気とは私を見ることだけじゃありません。いえいえ。
4097
Man2: もし隠れている病気なら、私にお話ください。 Chari: あんたたち、私にはそんなに言うべきことはないんだよ。もし私がたくさん喋ったら、私ゃ、まるで気狂いだってことになるだろうよ。だから、ンゴマをお打ちなさいな。あんたたちンゴマを打ってたんだろう?仕事(癒しの仕事)の(を外に出す)ンゴマ。ンゴマの仕事だろう。 Man2: ええ。 C: ンゴマをお打ちなさいな。そして仕事を(外に)お出しなさいな。さらに、お仕事をなさいな。 Man1: 私たちに仕事(癒しの仕事)をしろと? Man2: そんなことしたら、この場で死んでしまわないかな(冗談)。 C: ンゴマを打って、仕事をお出しなさいな。そして仕事をなさいな。 Man1: ンゴマを打ち、仕事を出し、その上で私たちに仕事をしろと? C: ああ、私は(霊の言うことを)しゃべっているだけさ。もし違っていたら、あんたたち違いますとお言いなさいな。 Murina: 私にすっかり言ってくださいよ。すっかり言って。後で調えなければならないその仕事っていうのが、いったいどんな仕事なのか。 C: ああ、私はだって (ここでカセットテープ片面終了)
4098
Chari: あんたたちに今すぐ言ってあげます。そもそも、私は人に隠しごとをしたりしないわよ。 Man2: そうですとも!隠しごとをしないということは、良いことですよ。 C: でも、あんたたち、私に何をくれたというの? Man1: まあ、まあ。私たちに同じようにすっかり話してくださいよ。 Murina(Mu): だって、あなたはいっぱい踊ったじゃないですか。 C: 踊るってことで言えば、私は自分でやめたとでも。私はいつまでもいつまでも踊り続けるだけよ。さあ、憑依霊カンバ人を、私に踊らせてよ。明日までだって私は踊れないとでも? Mu: じゃあ、踊りなさいよ。 C: でも、あの病人(ムウェレ=トゥシェ(ウマジ))には、何を打ってもらえるの? Mu: 二人いっしょに踊ればいいよ。 C: でも、私ゃ踊るだけでいいとなると、なにも見ないわよ。二度と立ち去らないわ。 Man2: 二人で一曲だけ踊れば、お母さん。あなたは自分の子供と一緒に踊るんですよ。 C: でももしかして、彼女がもっていない(憑依霊)かも。
4099
Man1: あああ。彼女(ムウェレ)が持っていない憑依霊を怒らせてしまうよ。 Chari: 私ゃ陰口好きだよ。話し始めたら、どこまでも止まらなくなっちゃうわ。おやおや。 Man1: ああ、お話しなさいな。 Murina(Mu): さて、私たちが(小屋の)なかで、何をひっくり返し(妖術返し111)すれば良いんだい? C: しっかりひっくり返しなさいな。だってあんたたちがひっくり返したら、事態は収まるんだから。 Mu: そのとおり。 C: さしあたってはね、瓢箪子供をお出しなさいな。頑張らないとね。だって、あんたたちが、お前らは(本物の)癒やし手(aganga)じゃない、なんて言われているのが見えたよ。 Benyawa(Ben): ああ、私たちアナマジ(弟子たち)は、あなたを頼りにしているのに。 Mu: 今すぐに? C: そう。だって彼女(ムウェレ)は、埋め隠せるどこかに埋め隠されてしまったもの(wakpwenda susumbikpwa142)。さて、私はなにか隠しごとをしてるかい(すべてをあからさまに話しているよ)? Mu: 彼女がどこかに埋め隠されてしまったって?
4100
Chari: そうよ。そして今もそのまま。だから(するべきことを)なさいな。で、それが済んだら、彼女をしっかりひっくり返してあげなさい(muphendule vyenye111)。だって、このままじゃ、あんたたち自身もそのうち同じように、埋め隠されてしまうだろうからね。 Murina(Mu): うう。私たち自身も... (チャリ突然歌いだし、杖を振り回しながら踊りだす。でもほんの短い間。) (チャリの占いの歌) 私は悲しみを感じる、癒しの仕事が争いだから ホー、私の癒しの仕事 私は泣きます、お母さん、何を話せばいいの 争いよ、ウェー、癒しの仕事 私は嫉妬されている 癒しの仕事は悲しみだから、ウェー 私は食べられています、お母さん、何を話せばいいの 争いよ、ウェー、癒しの仕事
Chari: 癒しの仕事(uganga)よ。それが済んだら、あんたたち、ムジム(muzimu143)そのものを片付け(ku-usa100)にお行きなさい。とても強大なムジムよ。ちっぽけなとは言えません。 Mu: なるほど、獰猛なムジムそのもの? C: 強大そのものなムジムよ。彼女の憑依霊たちをもって行かれてしまったの。(妖術使いが考えたことには)「こいつが癒しの術を欲しているとは、なんと。施術師になるというんだな」。そうして彼女の憑依霊たちをじっとながめて、悟ったのね。「なんとこいつは本物の施術師になるぞ。今のうちに(憑依霊たちを)ひっつかまえて、然るべき場所にガチッと閉じ込めてしまおう。蟻塚とか、ムズカ49とかな」
4101
Murina(Mu): 3つのステップかい? Chari: さしあたってね、おやりなさい、おやりなさい、おやりなさい、一段階、一段階。まず第一段階は、あんたはちゃんとやったってことだよね。だって、ムジムの棲み処にはもう行ったんだよね。 Mu: しっかり行きましたとも。 C: で、ンゴマを打つに至ったと。 Mu: ええ。 C: よくできました。じゃあ、これからそこに(ムズカに)支払いに行っておいで49100。 Mu: 私に行って支払ってこいと? C: 支払いに行っておいで。 Mu: はい、そうします。 C: このあとね、白い雄鶏をもって支払いにお行きなさい。それとご飯(米の)とバナナもね。それでおしまい。あるいは、まず蟻塚に行くことから始めてもいいね。行って、(そこに埋め隠された)品々をとってくる。
4102
Murina(Mu): 彼女(ムウェレ)を出してくると? Chari: 彼女を出しておいで。その後で、お前は支払いに行く。あっちの蟻塚には彼女をすでに出しに行ったんだから。 Mu: そうだね。 C: さあ、でもね、今度はいよいよ彼女をひっくり返し(umuphendule111)始めないと。 Mu: もちろんだとも。 C: 彼女をひっくり返してあげて。(ムズカに)支払いに行き、戻ってきて彼女をひっくり返してあげて。 Mu: そうだね。 C: さあ、彼女の方も、解いてもらったみたいに見えるだろうよ。 Mu: 彼女は3回にもわたって埋められたということかい? C: さて、その後もあんたにはまだする仕事があるよ。だって、彼女は今もまた埋められようとしているんだから。だって、あんたが「お前は施術師(muganga)なんかじゃない」と言われるようになるように、彼女は埋められようと言うんだから。だって、彼女は、あの連中のために、今埋められようというんだから。あの…。(かつて)それらのことをした奴は、そもそもこのあたりにはいない。でも今、(ことをこれからしようとしている奴を)探し出そうとしたら、近くで見つかるよ。今度は、この近くに住んでいる奴らによって埋められようとしているんだよ。 Mu: 近くにいる奴ら?
4103
Chari: あんた私に話して欲しいのかい... Murina(Mu): 話してくださいよ。 C: 言わないよ。 Mu: 話して、話して。 C: 私は話さないよ。もうされちゃったこと。 (チャリは突然、その場に居合わせている女性を指さして) C: おやあの御婦人には獰猛な憑依霊がいるよ。それについて話そうか。それとも話さないほうがいい? Mu: (まだ自分たちを攻撃している妖術使いの話題にこだわっている)片付けてやる。たいした問題じゃない。 C: ご本人たち、もしそのことについて(その女性についている強力な憑依霊について)まだ聞いたことがないのなら、まだ話されていませんと私に言っておくれ。 Woman(W): 聞かされています。 C: あの女性には獰猛な憑依霊がいる。ほらそこの女性だよ。 W: タイレ144です。 Mu: (まだこだわっている) 片付くさ。たいしたことじゃない。あいつはすでにわかっている。ここには深い穴が待っていることを! C: (再びムリナに向かって)それ、それ、そいつ(妖術使い)はそういうところが嫌だったんだよ。
4104
Murina(Mu): あなたがただ私に話してくれた通り、私にわかっているのは... Chari: あんた、彼女(ムウェレ)は妖術をかけられたんだよ。彼女を治療する者のなかには、自分たちは彼女を治療すると言う者もいる。でも別の者は、彼女を治療するといって、なんとそいつらは彼女に「布の縁飾り(chipaji)」145を与えたいのさ。彼女自身は、「私は妖術をかけられた」と言う。「それから、私は行きました。あちこち連れて行かれました。さて、私が着くと、そいつら(妖術の治療師であるが、実は妖術使いでもある)は言う『お前が、二度と(こうした災難に)あわないように』と。」それから彼女は見てもらう。(その妖術使いは知る)「くそ、なんてことだ。こいつの星(持って生まれた良い運勢)、こいつの。こいつは、今に(すごい癒し手になるぞ)...」というわけで彼女はすっかり「覆われて(akakandirwa 文字通りには「隙間を埋められて、塗り込められて」)」しまう。本人は、自分が治療してもらっていると思っている。でもなんと、しこたまやられちゃってるんだね。そんなに以前のことというわけでもない。 (解説すると、チャリ(憑依霊)が言っているのは、トゥシェは自分の病気が妖術のせいだと思って、何人もの妖術の施術師にかかった。でも彼らの中には妖術使いも混じっていて、そうした施術師はトゥシェの運勢を見通して、きっと優れた憑依霊の癒やし手になると知って、嫉妬し、彼女に妖術をかけてその彼女の能力を封じてしまったのだ、ということ) Mu: 彼女はすっかり覆われた、本人が知らないうちに。 C: そもそもほんの一昨日(少し前)にも覆われたんだよ。 Mu: ほんの少し前にだって?
4105
Chari: 私はそう言ってるんだよ。 Murina(Mu): たしかに、彼女はよくあちこち脚を運んで、施術師たちと相談しに行ってるね。 C: 彼女自身、占い(mburuga)を打って、(占いの終わりに)小枝を置いて、(占い師から)あんたを治す施術師はこの人だと言われる146。(その施術師が)来ると、(占いであなたに)「云々のこと(治療)をしてもらうようにと言われています」。施術師は「簡単なことさ」と答える。なんと、その施術師は(実は妖術使いであり)、彼女をあそこ(ムズカ)に置きに行く。戻って来ると、(その施術師は)彼女が望むものを手に入れられるようにと彼女を治療する(ふりをする)。もちろん(彼女が望んだそれらの)ものは、すべて死んでしまう。彼女は仕事がうまくいくようにと治療してもらうつもりだった。 Mu: そうとも。 C: さて、結局彼女の商売すらも死んでしまうってわけ(トゥシェはキナンゴの町で商店を営んでいる)。 Mu: 私もこの目で見たよ。 C: 彼女は、(人々から)彼女には悪い憑依霊が憑いていると思われている。「あいつは施術師になるというが、どうせ『引き寄せ(luvuho)』の類の霊だろうさ(彼女の憑依霊は真正な霊じゃなくて、彼女自身が妖術を用いて招き寄せた霊だ)」なんてね。実際にはそうじゃないのにね。
4106
Chari: (トゥシェがもっている)その憑依霊は、古くからの憑依霊だよ。だってそれは彼女が生まれたときからもっている、彼女自身の憑依霊なんだから。彼女は幼い頃からあの暗闇を見ていた。彼女は言ってるよ。彼女が発狂するとき、それは暗闇から始まったって。目眩だね。 Murina(Mu): その通り。 C: その憑依霊自身が富をもたらす霊。だから人々(妖術使い)は気に食わない。彼女のことを調べれば、わかるからね。曰く「なんとこいつは、ああ...!」 Mu: そこで奴ら(妖術使いたち)は、黒いもの(妖術をかけるのに用いる黒い薬(muhaso))をもって、大急ぎ。 C: ああ、彼女はますます妖術をかけられる、こうしている今も、さらにかけられる。ああ! (ムリナに向かって) C: そもそも、あんた施術師さん自身、(妖術使いたちは)あんたが、まるで生きていながら生きていないようになるように(文字通りには「この世のうちに在り、かつこの世のうちになきかのように」)、願われているみたい。 Mu: ああ、それなら奴らはくたびれもうけさ。 C: 彼らはますます頑張って... Mu: 奴ら、以前から頑張ってるさ、でももう疲れ切っている。俺は大丈夫。
4107
Chari: 彼らはお前を覆うよ。 Murina(Mu): 奴らは覆おうとして、どんな痛い目にあうだろうか、さ。 Benyawa(Ben): もっと頑張って覆うさ。 C: あんたは(妖術の薬を)差し込まれ(unaomekpwa147)、差し込まれするだけ。 Mu: 私も差し込むさ。私も奴らに差し込みかえすだけ。今や互いに差し込み合うのさ。 C: 私は分別なしだから、しゃべっちゃうよ。 Mu: 話して、すっかり話してくださいよ。あとはもう差し込み合うだけ。奴がずっと前に先に始めたんだから。 Man1: あんたがやられる(差し込まれる)だけ。 Mu: 私は差し込まれる。でも残りは一人だ。私がそいつにギシッと差し込んでやる。 Ben: 互いに差し込みあいなさいな。 Mu: そいつにしっかりと味あわせてやる。力を奮い起こすがいいさ、もしできるというのなら。 C: ところでね、あの蟻塚のところだけど、あの蟻塚では明日にでも施術が必要だよ。
4108
Chari: さらにその蟻塚のところへは、まずそこに行くのなら、地面に埋まっているアフリカマイマイの殻をもっていきなさいね。 Murina(Mu): それがどこにあるかはもう知ってる。 C: 地面にすっかり埋まった殻だよ。でもそれを持っていくのは彼女自身。あんたじゃないよ。彼女自身に覆いをめくらせなさい。あんたも病人といっしょに行って、彼女自身に最後までこんな風に話させなさい。「私は云々のことをされました。というのも私は、どうやら私の癒しの術(uganga)がうまくいきませんようにと唱えられたらしいのです。今日、今、私は自分自身の覆いをめくるためにここに参りました。」施術は明日ですよ。 Mu: それに年月を経た墓、死体がとっくに腐ってしまった。 C: だって、死んだ人がまた戻ってきたりすることがあるでしょうか、皆さん! Man2: ありません。 Mu: 土のなかさ。墓にまっしぐらさ。 C: さあ、あんたもそんな風にされたのさ。あんたは頑固に認めようとしないけど
4109
Murina(Mu): ああ、墓で奴らが私に何ができるっていうんだ。私はそこをよく知っている。奴らが別の(薬)を手にいれたのか、私にはわからない。でも墓の薬と言うなら。 Benyawa(Ben): このお父さん(ムリナのこと)が、すでに差し込まれたっていうんですか? Mu: 私は(薬を)差し込まれたよ、お父さん。思うに、奴らはまだ私を捕らえてはいない。 Man2: まだあなたを手に入れてはいない? Mu: 全然。 Chari: もう、私は帰るよ。このことを言いたかっただけ。 Mu: そもそも私は(薬なら)すごくたくさん持っている。あいつらは思い知ることになるだろうさ、あいつらは。 C: (アナマジたちに向かって) でも、まずは彼女(トゥシェ)に癒しの術をだしておあげ、兄弟たちよ。 Mu: (まだ妖術使いたちに対して息巻いている) もし奴らがわたしにふざけたことをしようものなら。 C: 皆さん、聞いてらっしゃいますか。 人々: しっかりお聴きしております。 C: 彼女に癒しの術を出してあげて、そして奮い立たせてあげて。この癒しの術の行く手には、とっても怖い人が立ちはだかっているわ。
4110,
Murina(Mu): わたしもね、だってこの人は私の子供(施術上の)なんだから。私の癒しの術を出してあげて、それが済んだら、彼女をマジュト148のところに連れて行って、彼女自身と彼女のムコバ(mukoba149)に対して、術をかけてもらう(ukaapizwe150)。あいつら(妖術使いたち)がどうなるか見てやろう。 Benyawa(Ben): その差し込むやつ(muomeki)自身が差し込まれよ、だね。 Mu: ヒツジ148に差し込まれて、思い知れ。私は彼のために占いを打ったりはしないだろう151。 Ben: だって奴らは隣人を次々と差し込んでいるからな、奴ら。 Mu: そいつが(死体となって)横たわっているそばで、足を地面に打ち付けながら激しく埋葬歌(chifudu)を踊ってやる。そしてそいつを棒で作った寝台(遺体を墓場に運ぶのに用いられる)で(墓まで)運んでいってやる。 Chari: ああ、私は帰りますよ、皆さん。 Mu: ありがとう。しっかりお聴きしました。 Ben: これがあなたのお話なら、たいへん結構なことでした。どうかおしずかに、おしずかにお立ち去りください。
4111
Murina(Mu): 私はどこにだって行ってやる。問題は収まるだろう。あいつらは知っているだろうが、マジュトのところ(の施術によって処置された場所)には近づけない。そこを通り過ぎただけで、お前はブッと膨れ上がる。傍からは身体を丸めているように見える。だれかと喧嘩しているわけでもないのに拳を握りしめている。ついには身体じゅうが破裂。ブワーッ、血が噴き出す。私はあいつらを眺めているだけ。マジュトこそあいつらの天敵さ。やつらをマジュトに委ねるだけ。破裂して思い知るがいい。口がこの辺りまで裂けて、耳は埋まってしまう。まるでキトゥクルのヒツジ(ng'onzi ya chitukuru152)みたいにね。徹底的に差し込まれてしまう。 Benyawa(Ben): そいつは最後のひとトゲを差し込まれてしまう。 Mu: まさに!もう二度と私を困らせることはない。 Ben: 彼には抜けない。 Mu: 私はね、お金を使い尽くすかもしれない。こっちの施術師某のところへ行き、あっちの施術師某のところへ行きしてね。でもほらマジュトがここにいる。それですべておしまい。ヒツジで蓋をされて、お前は、そいつが膨れ上がって破裂するのを見ることだろう。それがそいつの時間(の終わり)じゃないかい?そいつらが、他人の足跡を拾い上げて(足跡の土を拾って持ち帰り)それを墓にもって行く153。こんなこともすべて終わる。
占い終了し、カヤンバ演奏再開 4112 (04:15 カヤンバ演奏再開。カルメンガラ(憑依霊ドゥルマ人・男性)から。しかし録音失敗。テープ無音状態が続く。)
トゥシェの占いテスト (04:55 太鼓演奏に変更。トゥシェの占いテスト開始。太鼓によるムルングの歌5=2) (テストでのムウェレと施術師のやり取りは太鼓の音のせいで、ほとんど聞き取れない)
ムァチェ川まで、私の子供たちに会いに行かせて 私はどうしたらいいでしょう? 私の子供たちに会いに行かせて、私の友よ ムァチェ川まで、私の子供たちに会いに行かせて 私の子供たちに会いに行かせて
ヘー、蛇、ヘー、蛇、ヘー、蛇 空(mulunguni)の上の方には蛇がいるってさ 争いごとを壊すもの154 おお、蛇、エエ、蛇、エエ、蛇 争いごとを壊すもの、エエ、蛇
(この間に聞き取れた会話)
Tabu(Ta): どうしてもうこの歌を歌ってるの? Man2: だって、ムァンザさんだよ(ムァンザが歌い始めたからだよ) Ta: まだあの人(トゥシェ)が終わってないのに、あんたたちもう歌っている。蛇なんて。 Chari:(トゥシェに向かって)...あんた、病人が死んでしまうよ、あんた。ここにいる誰が病人か告げなさいと言われているんだよ。病人はいないだって?(もう一人の施術師Chaiに向かって)病人はいないって言ってるよ。
4113 (ムルングの歌7)
ウンバ川156の雨よ、降りてきてください(降ってください) ウンバ川の雨よ、降りてきてください ああ、ウンバ川の雨よ、降りてきてください ムァチェ川157の皆さま、雨、そしてウンバ川、降りてきてください ハー お婆さん、雨は創造する(yinaumba)、降りてきてください
4114 (太鼓の演奏止む)
Chari: 太鼓はお休みかい? Man1: 休んでるもんですか。あなた方に耳を傾けているんですよ。だって... Woman: 私たちは仕事を見ているんです。病人(複数)はいるんです。 Munyazi: 彼らはしっかり見てもらいたがっている。なのに彼女(ムウェレ)は病人はいないって言う。健康な人ばかりだって。彼女は苦しんでいる人もいるのがわからない。 H: 何に苦しめられているんですか? Woman: 脚です。 人々: この人、言っちゃったよ。 Woman: 私って、そそっかしいのよ。 Murina: やれやれ、じゃあ... C: 置かれたのは病人の硬貨じゃなかったのよ、あれは。(硬貨をムウェレの前に置いた人が)ムウェレを測ろう(能力を見定めよう)と思ったのね。病人の所持していた硬貨を置かなかったの。さて、彼女(ムウェレ)は占いを打って、最後に、病人はこの人だよ、って言い当てることになっていたのよ。でも彼女は占いを打ったあと、病人はいないって言ったのよ。 Man2: ということは、その硬貨は病人の所持していた硬貨じゃないと。 C: ちがったのよ。
4115
Man2: その硬貨は病人のものではなかった。テストの硬貨だった。 Murina(Mu): ということは、彼女は当たってたということ? Chari: つまり彼女は言い当てたってこと。病人はいないっていったんだもの。置かれたのは病人の硬貨じゃなかった。 Man2: じゃあ、ンゴマは終了した? C: 終了って? Man2: さあ、太鼓は置きましょう。 Mu: さて、なんで置かなきゃならないんだ。大いに打たなくては。 Mwanza(Mw): サンバラ人を打ちましょうや。その人こそ偉大な癒やし手では? Mu: サンバラ人と言えば、強力な癒やし手じゃないかい。 Mw: 今こそサンバラ人を。 Mu: サンバラ人を今! 力をこめてサンバラ人を、皆さん。 Woman: 彼女はカヤンバの演奏が良いんだって。 Mw: でもサンバラ人こそ癒やし手そのものじゃないかい?
4116
Man1: さあ、もう折り合いはついたかい、それともまだ? Murina(Mu): サンバラ人をやろうということで折り合いはついたさ。 (サンバラ人、太鼓で開始。しかしトゥシェの占いの試みは、またしてもうまくいかなかった。彼女自身が、もうできないと告げた。)
ジャンバ導師で憑依 (05:45 太鼓終了し、再びカヤンバ演奏に戻る。最初がジャンバ導師、続いてジャバレ導師。始まるやいなやムニャジが突然、憑依状態に。両手を広げて飛行機ごっこをする子供のように飛ぼうとし、そのまま倒れかかる。ムリナのzuruuuuという「アラビア語」に嬌声で応える。)
(ジャンバ導師の歌1 ku-suka) (独唱)
さあ、あなた、ジャンバ導師、太鼓を打ってもらえ ウェー、その名は我が導師、ウェー、人食いジャンバ (合唱) ジャンバ導師、太鼓を打ってもらえ、お母さん、ウェー 不運、ウェー、人食いジャンバ (独唱) 遠くの海に行きましょう、ウェー ジャンバ導師、太鼓を打ってもらえ、お母さん、ウェー 私たちは行きましょう、ウェー、人食いジャンバ (合唱) ジャンバ導師、太鼓を打ってもらえ、お母さん、ウェー 我が導師、太鼓を打ってもらえ、お母さん、ウェー (独唱) お母さん、ウェー、その名はジャンバ、太鼓を打ってもらえ、ウェー 我が導師、人食いジャンバ その名は、海に、ウェー ンゴマに招待される、ドラゴン、ウェー 私たちは行きましょう、ウェー、人食いジャンバ
(ジャンバ導師の歌2 ku-tsanganya) (独唱)
憑依状態のムニャジとムリナのやり取り付きさあ行こう、エエ、さあ行こう、太鼓を演奏しろ さあ行こう、海の導師 (合唱) さあ行こう、エエ、さあ行こう、海 さあ行こう、太鼓が鳴っている、さあ行こう、海のライオン
(倒れようとしたところを支えられ、叫び続けるムニャジ)
Munyazi(Mun): ヒイイイ、ヒイイイ、アアア Man2:(スワヒリ語で) お静まりなさい、断固、お静まりなさい Murina(Mu): あああ、ズルルルルル、お静まりなさい、お静まりなさい、お静まりなさい、ズルルルルル。 (数分間にわたって大混乱) Munyazi:(スワヒリ語で) 絶対いやだ、絶対いやだ。お前たちは私を騙した。絶対いやだ。 (ムリナ「アラビア語」でムニャジに説き聞かせる。やがてムニャジは同意するように首を振りながら、スワヒリ語で「そうです(Ndiyo)、そうです」と応える) Mun: そうです、そうです、そうです。
4117 (ムリナ「アラビア語」で語りながら、ムニャジにローズウォーターの瓶を見せる。ムニャジ歓喜の笑い。さらにムリナは憑依霊を描いた彼のスケッチブック159をムニャジに見せる。ムニャジはスケッチブックを持って、笑いながら踊る。続いてムニャジは占いを打つ真似事をする。)
ムリナとジャンバ(ムニャジ)のやり取り(意味不明だが)Man2: 降りなさい、降りなさい、降りなさい。
(ジャンバ導師の歌 ku-bita) (独唱)
私は山に登る マングローブの蛇に会おうと (合唱) 私は山に登る マングローブの蛇に会おうと
Man2:(to Hamamoto) おまえ、マングローブの蛇を見たかい? H: はい、確かに見ましたよ。 (ムニャジはまだ占いをしようとしている) Munyazi(Mun): 太鼓の響きがないよ、ここには。太鼓の響きが全然ないよ、ここには。 Man2: 太鼓の響きがないだって?これが響きではないと?(鳴っているのはカヤンバだが) Chari: 私はあなたにつつがなきことのお静まりを与えましょう、私の友よ。(以下、騒音で聞き取れない)
4118
Kalimbo(ンゴマ奏者の): お前は言葉をもって立ち去り、論争をつかむだろう。さあ、キナンゴへ行って、誰が憑依状態になったか報告なさい。そして今日、捕まるがいい。 Chari: (スワヒリ語で)お静まりなさい、お静まりなさい、お静まりなさい。こちらにお座りなさい。お静まりなさい。あなたは本(憑依霊の絵が描かれたスケッチブック)を手に入れますよ。あなたはあなたの癒しの術を手に入れますよ。でも、どうか解きはなしてください、解きはなしてください、仕事をもう一度解きはなしてください。私はつつがなきことを欲しているのです。お静まりください。さらにもっとお静まりください。さあ、お静まりください、お静まりください、お静まりください。 (ムニャジは2人の女性によって小屋の中に連れて行かれる)
(06:10 トゥシェに瓢箪子供が与えられる。その後、人々はまわりを踊りながら周回する。手にムションボをもって、それを口に運びながら。06:30 ンゴマ終了)
トゥシェ最後の試練: 草木採取 (06:45 カヤンバ再開、ムルングの歌6が最後まで繰り返し演奏される)
Murina(Mu): カヤンバを打って、カヤンバを打って! Chari: 急ぐように言って。 Mu: 走ってやるところだからな。キビをちょうだい。とっとと渡してくれ。それと灰も。
4119 ムルングの草木に対するクハツァ (ウマジ、無事にmurindaziyaにたどり着く。チャイとチャリそれぞれがクハツァする) (チャイによる唱えごと)
背後でムルングの歌6が演奏され続けているChai(男性施術師): ...<聞き取れない>...ウマジには困難と苦悩がありました、ウマジ。身体はいつも病気。今こうして子供(瓢箪子供)を握っている、なんと彼女に求められていたのは施術師になることだったのですね。こうして私たちは癒しの術を外に出します。この癒しの術は、あなたムルング子神、サンバラ子神もおわします。私は皆さま方にお呼びかけいたします。穏やかにと。 黒い鶏はあなたムルング子神のです。そこには憑依霊アラブ人、ペーポー、サンズワ、バラワ人もおられます。サラマ、サラミーニ(安全に、平和に)。草木よ、奴隷よ、お前は使役できる。とき解きください、とき解きください、とき解きください、解け。ウマジが、たとえ夜中の12時であっても、ここにたどり着けば、彼女をご用立てください。サラマ、サラミーニ。 憑依霊バルーチ人のおわすところ、アラブ人のおわすところ、ロハニたちのおわすところ、スディアニたちのおわすところ。とき解きください。お前は黒い鶏です、サラマ、サラミーニ。躊躇い(恐る恐るすること)も何もありませんように。<聞き取れない数語>サラマ、サラミーニ。
4120 (チャリによる唱えごと)
Chari: ...<聞き取れない>...道を迷い歩き、世界を彷徨い、この世をさすらう。 さて、ウマジには癒しの術の祖霊がいると言われました。今日、ウマジに私は癒しの術を与えました。彼女に癒しの術を与え、私はこの癒しの術が、月のごとく輝くことを願います。癒しの術が、少女のごとく成熟しますように。癒しの術が、ムヴモ(muvumo160)の木のごとく、唸り響きますように。 今、この者は人によってその草木をつかませてもらったのではありません。彼女自身が、自分でつかんだのです。それゆえ私は願うのです。癒しの術が輝きますようにと。癒しの術が、蜂蜜のごとく飲まれますようにと。お前は白い鶏、そしてお前は黒い鶏です。 Murina: 子供たち、カヤンバを打って、カヤンバを打って。 (チャイによる唱えごと) Chai: この者ウマジ、ウマジには困難と苦悩がありました。そして占いに行って、癒しの術(を出す)までは、病気は治らないよと言われたのです。今、私たちは彼女に癒しの術を与えました。まったくまったく真正なる癒しの術を。あなたムルング子神、そしてあなたペーポー・アラブ人、サンズワ、バラワ人、バルーチ人、カニキ。デナもプンガヘワもいます。あなた方、お酒飲み。さて、皆さまとき解きください。癒しの術の全ての祖霊を、安全に、平和に。サラマ、サラミーニ。彼女の癒しの術が、どこまでもどこまでも永続しますように。
4121 (チャリによる祖霊たちに対する唱えごと、ヤシ酒を地面に注ぎながら)
Chari: 私はウマジとともにお話いたします。この者ウマジが病気に苦しみ始めたのは、昔のことです。彼女は、彼女には癒しの術(を出してもらうことが)必要だと言われたのです。癒しの術は、彼女がまだ外に出されていない頃から、今日にいたるまで、ずっと継続してきたのです(彼女が施術師のような特殊な能力を示し続けてきたということ)。そしてついに今日、私たちはンゴマを打ちました。ウマジはやって来て、自分でこの草木をつかみました。あなたムルングよ、あなたの草木の偉大なるものはこれです。こうして今、ウマジです。 癒しの術が輝きますように。癒しの術が月のごとく輝きますように。少女のごとく成熟しますように。ムヴモのごとく唸り響きますように。(これこそ)癒しの術の健全さ。癒しの術は軽からず、ずっしり重くあれ。 今、私はウマジの癒しの術を欲します。彼女のために癒しの術をとき解いてあげてください。彼女の一族の祖霊たちも、私の一族の祖霊たちも、ともに眠りにつきますように。彼女の一族の祖霊たちと、チャイの一族、ムブイの一族が皆、一つ所で眠りにつきますように。