徹夜のンゴマ(ngoma ya kuchesa)| カヤンバ(kayamba ra kuchesa))

多くのカヤンバは徹夜で開催されるのであるが、リストに上げた他の特別な目的をもつカヤンバに対して、単に病気治療の過程で憑依霊に対して開催を約束したカヤンバ1を、ここでは特にこの名称で呼ぶことにする。 病気を引き起こしている憑依霊の要求が、とりわけ自分のためにカヤンバを開催することである場合がある。その要求内容は占い2で明かされるが、多くの場合、念のために「憑依霊を見るカヤンバ」で実際に患者にその憑依霊が憑いているかどうかを確認し、その際に、その霊の要求も確認することになる。大規模なカヤンバ開催が要求の内容である場合、それを約束し、その結果病気が収まった場合には、できるだけ早い機会にその約束を果たす必要がある。しかし、たいていの場合、患者家族の金銭的な余裕やその他で約束の履行は遅れがちになる。憑依霊は再び患者を病気にすることでその履行を迫る。その都度、施術師は事情を説明し、待ってくれるよう唱えてその場を凌ぐこともできるのだが、患者の方でもできるだけ早く約束を果たしたいという思いもある。資金に余裕がある場合は、健康そのもののムエレ(muwele3)に対して、徹夜の賑やかなカヤンバが開催されることもある。

事例

  1. ベキジ(Bechizi)の屋敷でのカヤンバ

 

注釈


1 憑依霊に対する「治療」のもっとも中心で盛大な機会がンゴマ(ngoma)あるはカヤンバ(makayamba)と呼ばれる歌と踊りからなるイベントである。どちらの名称もそこで用いられる楽器にちなんでいる。ンゴマ(ngoma)は太鼓であり、カヤンバ(makayamba=pl. of kayamba)とはエレファントグラスの茎で作った2枚の板の間にmuturituriの実を入れてガラガラ音を立てるようにした打楽器で10人前後の奏者によって演奏される。実際に用いられる楽器がカヤンバであっても、そのイベントをンゴマと呼ぶことも普通である。カヤンバ治療にはさまざまな種類がある。カヤンバの種類
2 占い。ムブルガ(mburuga)は憑依霊の力を借りて行う占い。客は占いをする施術師の前に黙って座り、何も言わない。占いの施術師は、自ら客の抱えている問題を頭から始まって身体を巡るように逐一挙げていかねばならない。施術師の言うことが当たっていれば、客は「そのとおり taire」と応える。あたっていなければ、その都度、「まだそれは見ていない」などと言って否定する。施術師が首尾よく問題をすべてあげることができると、続いて治療法が指示される。最後に治療に当たる施術師が指定される。客は自分が念頭に置いている複数の施術師の数だけ、小枝を折ってもってくる。施術師は一本ずつその匂いを嗅ぎ、そのなかの一本を選び出して差し出す。それが治療にあたる施術師である。それが誰なのかは施術師も知らない。その後、客の口から治療に当たる施術師の名前が明かされることもある。このムブルガに対して、ドゥルマではムラムロ(mulamulo)というタイプの占いもある。こちらは客のほうが自分から問題を語り、イエス/ノーで答えられる問いを発する。それに対し占い師は、何らかの道具を操作して、客の問いにイエス/ノーのいずれかを応える。この2つの占いのタイプが、そのような問題に対応しているのかについて、詳しくは浜本満1993「ドゥルマの占いにおける説明のモード」『民族学研究』Vol.58(1) 1-28 を参照されたい。
3 その特定のンゴマがその人のために開催される「患者」、その日のンゴマの言わば「主人公」のこと。彼/彼女を演奏者の輪の中心に座らせて、徹夜で演奏が繰り広げられる。主宰する癒し手(治療師、施術師 muganga)は、彼/彼女の治療上の父や母(baba/mayo wa chiganga)[^mwana_wa_chiganga]であることが普通であるが、癒し手自身がムエレ(muwele)である場合、彼/彼女の治療上の子供(mwana wa chiganga)である癒し手が主宰する形をとることもある。