講義メモと参考文献


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第十一回講義

前回の補足と続き

  1. 合理的な利得計算 / 不正に対する憤り
            最後通牒ゲーム(ultimatum game)
            チンパンジーとヒトとの違い
    
            処罰を課すコスト / 義憤の感情
                    
            義憤感情の起源
            幼児に見られる正義意識
            
      
  2. 交差イトコ婚規則の意味
              前回レジュメ参照    
      
  3. インセストを推奨する規範の存在の意味
              前回レジュメ参照
      

互酬と交換(1):交換のなぞ

インセスト・タブーは女性の交換を命じる規則だとするレヴィ=ストロースの見解

交換が社会関係を作り出す
なぜ交換にそのような作用があるのだろう

交換の既存のイメージ

      経済的必要
      何かを手に入れるための手段

      経済的利得?

経済的意義を欠いた贈り物慣行

   トロブリアンド島民の交換(贈り物のやり取り)についての
   マリノフスキーの観察

     「もし誰もが事実上それをもっており、また同じ方法で入手しているのな
     ら、籠一杯の果物や野菜を与えたりすることに何の意味があろう。もし、
     贈物をあげて、これがまったく同じものでしかお返しが出来ないのなら、
     なぜ贈物をしたりするのだろうか」(マリノフスキ:205)

     「贈物がいったい必要なのか、それとも役に立つのかなどと考えずに、
     与えるがために与えるというのが、トロブリアンドの社会学の最も重要な
     特徴である。」(213)


    アンダマン島民の事例(ラドクリフ=ブラウン)
        アンダマン諸島(ベンガル湾東部)
                5500人(19世紀半ば)→23人(1953)

       資料:アンダマン島民の交換実践


トロブリアンド諸島のクラ交易(マリノフスキー)

クラ交易圏

Malinowski on Kula


ソウラバ(ウミギクの首飾り)ムワリ(白い貝の腕輪)
      限定された期間のみ占有
        遠征によって取得
        他の島からの遠征者に対して手放す
      交換されるから価値が生まれる/価値があるから交換される

クラの主な目的は、実用性のない品物を交換することにあるのだから、必要に 
せまられておこなうものではない。クラは余分な粉飾をとりのぞいた、そのぎ 
りぎりの本質においては、きわめて単純なことがらであり、一見すると平凡で 
退屈にさえみえるかもしれない。 
結局これは、もともと装飾用につくられながら、決して日常の装飾としては使 
われない二つの品物を、無限にくりかえして交換することにつきる。しかし、 
ふたつの意味のない、まったく無用な品物をつぎつぎに交換するというこの単 
純な行為が、部族間にまたがる大きな制度の土台となり、ほかの多くの活動を 
ともなってきた。  

何千人という人びとを二人づつ組み合わせ、共同関係にまとめあげることを根 
本としておこなわれる。この共同関係は一生つづくものであり、さまざまな特 
権や相互的な義務をふくみ、一種の大規模な部族関係をなしている。  
      
神話や呪術、伝統が、クラをめぐる一定の儀式の形式をつくり、原住民の心に 
クラの価値とロマンスのひかりを与え、この単純な交換への情熱を彼らの胸の 
うちに注ぎこむのである。  

社会的連帯

        交換は連帯を生む?
           eg. レヴィ=ストロースが挙げるフランス田舎町のレストランの光景

       	交換の危険な賭け
	

交換と贈与
交換/贈与:対立概念か?

 贈与論(マルセル・モース)
    交換は利得に動機付けられた経済的交換に先立って、相互的な贈与の形で
    見られる

      交換
	  =贈る義務 + 受け取る義務 +返礼の義務

   利得計算とのせめぎあい

   矛盾
   見返りを期待しない行為(理念)/返礼がなかった場合の義憤(相手を違反
                                             者としてとらえる)

   贈り物に宿る「力」 ハウ


参考文献

浜本 満, 1994,「交換:ただより高いものはないわけ」『人類学のコモンセンス:文化人類学入門』第8章

R・ドーキンス, 1991, 「ぼくの背中を掻いておくれ、お返しに背中をふみつけてやろう」『利己的な遺伝子』第10章 pp.264-300

B・マリノフスキー,1980(1922),「西太平洋の遠洋航海者」泉靖一編『マリノフスキー/レヴィ=ストロース』世界の名著71、中央公論社

M・モース,1973(1968),「贈与論」『社会学と人類学 I』有地亨他訳,弘文堂