講義メモと参考文献


第四回講義

前回の復習

文化的学習と模倣:ヒト固有の学習モード

Gregorian Creature(デネット 2001:499)
グレゴリー型生物= 他の個体からプログラムを調達

スタンドアローン学習から社会的学習へ

  
    スタンドアローン学習

        各個体がそれぞれ一から自前でプログラムを生成

        個々の個体が獲得したトリックは他の個体へ、次世代へ継承できない

    社会的学習

        集団の他のメンバーから適応上有利な情報を引き出すことができる
          →個別的学習よりも低コスト

            言語によるインストラクション(次回の中心テーマ)
    
           「模倣(imitation)」による学習

               「模倣」はヒト固有?
               お手本をやって見せて技を教えることができる。犬や猫は...
    
               生後10ヶ月の男児と生後7.5ヶ月のチンパンジーの雌を一緒に
               育てる実験(Heinrich, J. & R. McElreath 2007)

                 →動物は模倣しない
    
      模倣によらない社会的学習

             (1)露出/ニッチ構築(exposure/niche construction)
                同じ種の他の成員たちによって顕著に変更を加えられた自然
                環境を受け継ぐ
                →個体がある種の行動を学習することを容易にする
    
                子供がいつも母親の後をついていく→結果的にしばしば水場に遭遇
                →水が手に入る場所を学習

              (2)刺激強調(stimulus enhancement)
                ある個体の行動が、別の個体の注意をその環境内の特定の要素に
                向けさせる
                →その結果、同等の行為が(個別の学習によって)引き出されうる
    
                シジュウカラの牛乳瓶の蓋つつき

                幼いチンパンジーが母親が投げ捨てた木の棒に注意を引かれ
                自ら木の棒をいじり、母親がその木の棒によって行っていた
                ことと同じ行動を自ら学習する

               (3)エミュレーション学習(emulation learning)
                他の個体が環境の要素に対してある操作を行っているのを見て
                その環境要素がもつアフォーダンスについて学ぶ

                母親が丸太を転がして、その下の地面にいた虫を食べる
                →チンパンジーの子供も同じことができるようになる
                  子供は丸太の下に食べられる虫がいることを母の行動を見て
                  学んだ

               (4)簡易化(facilitative teaching)
               ミーアキャット 親は最初に死んだサソリを、ついで半ば死んだ
               サソリを子供に与え(task decomposition)、子供が生きた
               サソリを狩る技を徐々にマスターできるようにする(ordering skill
               acquisition (Sterelny 2012, 35))
      
                ≠模倣による学習
      
                    幸島のニホンザルによるイモ洗い「文化?」
                       群れ全体に広がるまで何十年もかかる(伝播が遅すぎる)
                       年寄りザルは結局身につけなかった
                   
                    届かない物を熊手で取る実験
                     (1)やり方A(わざと非効率な)で見本を示す
                     (2)やり方B(効率的なやり方)で見本を示す
                    →ヒトの幼児とチンパンジーの違いは?


      模倣による学習

      模写と模倣
      
              (1)模写(mimicking)
                 鳥の歌のように、他の個体の行動が仲間によって再生される

              (2)模倣(imitation)       

      
          模写・模倣は複雑なプロセス
                =リバース・エンジニアリング

                他の個体の行動を観察して、それを生み出す
                プログラムを生成する

                脳内の仕組み(ミラー・ニューロン?)

          模写と模倣の根本的な違い
          模倣:単に他の個体の行動だけでなく、そのコンテクスト、行動の結果、
                意図との関係で、それを生み出すプログラムを生成する
      
          何のためにいつするべき行動であるかまで
                含めて、はじめて模倣的学習といえる

                ニムの皿洗い
                (プロジェクト・ニム)
                 =模写
                 「何をやっているのか」を知らない


               →模倣は他者の視点を把握できていないと不可能
      
                 他者を意図をもった(こころをもった)存在として
                 理解する

                 他者の意図や目的によって他者の行動を予測する


          9ヶ月児革命

          4歳革命「こころの理論」
      偽信念課題

    模倣を超えるもの
          文化の累積進化の謎
                             
              模倣(=リバースエンジニアリング)の孕む困難

          指示(レシピ・設計図)> 模倣


参考文献

今週のテーマについてさらに考えるために

ダニエル・C・デネット, 2001,『ダーウィンの危険な思想:生命の意味と進化』山口泰司監訳、青土社

スーザン・ブラックモア, 2000,『ミーム・マシーンとしての私』(上)(下)垂水雄二訳、草思社

マイケル・トマセロ, 2006,『心とことばの起源を探る』大堀壽夫他訳、勁草書房

マルコ・イアコボーニ, 2011,『ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』(塩原通緒訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

Sterelny, K. 2012. The evolved apprentice: How evolution made humans unique. TheMIT Press