講義メモと参考文献


第十四回講義

信念の生態学

「私たちヒトを作動させるプログラム」

前回の補足


遺伝子レベルのプログラムの進化

   うまくいった、そこそこ勝率の良い(子孫=プログラムの複製、を増殖させる)
   賭けが選別され、生き残っていく

   賭け?
       バリエーションの産出はランダム
                ↓
          どんな行動も結果的には世界についての何らかの想定を論理的に前提
                ↓
          結果的にうまくいき生き残ったプログラムが前提としている想定
          はそこそこ当っていた
      
複雑なプログラムへ

      
[戦略ゲームの進化]

  プログラムの成功不成功が他の個体がどんなプログラムで動いているかに依存
  ↓
  プログラムの成功が、プログラムがうまく行かない状況を作り出してしまう
  
      誠実オスばかりの状況が、尻軽メスプログラムの進化を可能にし
      尻軽メスプログラムの成功が、浮気オスプログラムの進化を可能にする
      浮気オスプログラムの増殖が、恥じらいメスプログラムを増殖させ
      それが誠実オスプログラムの成功を導く etc.


信念の生態学

私たちヒトのプログラム (1)遺伝的プログラム どんな行動が遺伝的にプログラムされたものか (2)学習(オペラント条件付け、試行錯誤) それを可能にした遺伝的条件 (3)学習(社会的) 模倣 リバースエンジニアリングとしての模倣 インストラクション複製による模倣 それを可能にした遺伝的条件 模倣を可能にした 言語を可能にした (4)規則 他人がそれに従うことによって社会生活の予測可能性を増す それを可能にした遺伝的条件 (5)信念システム 世界についてのあてにしてよい事実 W・ジェイムズによる真理化のプロセス 世界はどんな風にできているか(認知的)     ↓    そこではどう振舞うのがよいか(実践的)     ↓    実践の結果による検証(真理化) *「信じる」という言葉の用法 さまざまな事例 オプティミスムとペシミスム ハーフォード「統計的差別と偏見的差別」(T. Harford 2008) 負のインセンティヴの螺旋(あるいは真理化のドツボ) 差別は不合理→市場の調整作用に委ねる→是正 という自由主義的議論に対して、アファーマティヴアクションの必要性を主張 統計的差別 ‖ 集団についての統計的情報をもとに個人を判断すること ↓ これは『偏見的差別』とは違って「合理的」 世界観の多型安定モデル それぞれのオプションが、自己を真理化するプロセスをもつ きちんと計画を立てればうまく行く /  計画通りにはいくわけがない 計画 ずさんな計画 ↓ ↓ 予定通りに進める努力 予定通りに進める努力を払わない ↓ ↓ 計画の実現 やっぱり計画通りになんていかない 実際にうまく行くかどうかは それぞれの戦略をとる個体の 分布に依存 努力は報われる/努力しても無駄 運、生まれつきの才能、家柄、コネ 外部は敵(危険)/外部はチャンス (7)信念システムの再帰性 他人の信念についての信念 ジジェクの他人の信念のパラドクス ダブルコンティンジェンシー (8)物語 われわれの脳の物語親和性(物語に呪縛されやすさ) 規則、レシピ、信念システムはすべて物語りに統合される 日常性を構成している無数のプチ物語=筋書き群 コンビニで買い物筋書き 父親として家族を守る筋書き 筋書きを成立させるための共犯関係 物語の登場人物にふさわしい、感情、意志 悪に対する憤り 正義を行使する快感 喪失に対する悲しみ アイデンティティ=キャラ いかなる物語の登場人物として生きるか 日本人の物語 男の物語 etc. の大きな物語 物語の選択と賭け 一人ひとりが「私の物語」を作り上げていく

参考文献

メイナード・スミス1985『進化とゲーム理論』寺本英・梯正之訳、産業図書

Hamlin, J.K., K. Wynn, P. Bloom, & N. Mahajan, 2011, 'How Infantsand toddlersreactto antisocial others' Psychological and Cognitive Sciences
pdf版はここ

Harford, T., 2008, The Logic of Life: The Rational Economics of an Irrational World, Random House.

C・ギーアツ, 1987,『文化の解釈学I』吉田禎吾他訳、岩波書店
第4章「文化システムとしての宗教」(和訳がかなりひどいので注意)

浜本満, 2009,「進化ゲームと信念の生態学−社会空間における信念の生態学試論2−」,『九州大学大学院教育学研究紀要』第11号(通巻 第54集)pp.125-150.