交換と贈与 交換は利得に動機付けられた経済的交換に先立って、相互的な贈与の形で見られる 贈り物はヒトの「本性」 霊長類段階(チンパンジーにも見られる)から進化してきた利他行動 ↓ ヒト固有の特異な制度 贈与効果 人間関係に重大な効果をもたらす / 利得によって動機付けられた交換 ↑ 贈られるものの経済的価値には比例しない 人間関係を生成するプロセス=関係を確認する作業 贈与の競争的側面 関係承認的側面 懐柔的側面 なぜそのような効果をもつのか ↑ 境界侵犯行為として捉えられることによって 贈与効果を生じさせない方法 贈与交換 / 貨幣による決済 ヴォランティアと非正規労働
言語シンボルを用いた環境世界の立ち上げ 今ここの実世界(インデックス世界)/シンボルによる世界の描き出し =実世界との対応がなくてもよい 特殊な世界モデル 境界性 穢れ 贈与効果 etc. 社会的プログラムとしての「規則」 集団の構成員を相互にプログラムする モデルと「真の世界?」 「ポパー型生物」 世界についての内的モデルによって行動をプレ・セレクション c.f. 「逆光学」(S・ピンカー 2003) 光学:ある特定の照明の下で特定の形と素材を持つ物体が どんな網膜像を結ぶのか→OK 逆光学:網膜映像をインプットとして、それが実際には何であり、どんな 素材でできているかを判別する→不良問題(解をもたない) モデル 自分の体のなかで起こっている状態変化にもとづいて、計算された 外の世界についての「想定」 適応(チューニング)実践の内部で検証 でたらめな構築(当て込みが成り立たない)→ことがうまく運ばない 自然は賭け(比喩的に)をする 「自然」は一種の博打を打つことによって進化してきた。 すべての遺伝的プログラムは、環境がある条件を満たしているときに うまく行く。 しかし前もって環境がその条件を満たしているかは知りえないので、 いわば一か八かの賭けをしていることになる。 逆光学 世界についての状態に決定解がないのに、ある解をいわば正解だと想定した プログラムを試している eg. 盲点 進化 = うまくいった、そこそこ勝率の良い賭けを選別し、生き残らせてきた (例) ユクスキュルが描くマダニの生活 明度覚(明暗の区別) 酪酸濃度 温覚(温度差) 地面に落ちる → 草の先端、枝の先などに移動(明度覚) ↑ ↓ | 活動停止(眠る) | ↓ | 手を離す(酪酸濃度) | | |-----------←-------失敗 ←→ 哺乳類の身体の上に落ちる ↑ ↓ | 皮膚表面に到達(温覚) | ↓ | 吸血 | ↓ ------------←------------- コダニ ← 産卵 遺伝的プログラムと文化的プログラム → ヒトはシンボル化を通じて、それらを「本物の賭け」にした? 世界についてのモデルを介して世界に働きかける モデルに対して戦略をテスト 実行 世界からの応答によってモデルを修正する 進化の産物としての遺伝的に設計されたプログラム ↑ ↓ 「文化的」に後からインストールされるプログラム 状況の多様性 汎用性
進化ゲーム理論 メイナード・スミスの進化的安定戦略の議論 社会空間における対戦プログラムの動態 戦ったり戦わなかったりする魚たち タカ派:一方が死ぬか戦闘不能になるまでとことん戦う ハト派:威嚇するだけ、相手が逃げると追う、相手が向ってくると逃げる タカ×タカ 際限なく戦い、一方が激しく傷ついたときしか引き下がらない タカ×ハト ハトは一目散に逃げるのでどちらも傷つかない ハト×ハト 長時間にらみ合い、飽きた方が去る 勝者 50 敗者 0 重傷 −100 時間の浪費 −10 得点が高いほど多くの子孫を残す 子孫は親と同一プログラムで動く ハト派のみの集団 ハト×ハト 勝率50% 勝者:50−10=40 敗者: 0−10=−10 期待値 40x0.5+(-10)x0.5=15 そこにタカ派出現 タカ×ハト タカは必ず勝つ 50 ハト 0 ハト×ハト 15 ↓ 集団内でタカ派が増殖 タカ派一色になるだろうか→no タカ×タカの対戦が出現 タカ×タカ 勝率50% 勝者:50 敗者:−100 期待値 50x0.5+(-100)x0.5=-25 ハト 0、15 ↓ 集団内でハト派が増殖 集団内のハト派の割合=p タカ派 =1-p ハト派の個体 ×ハト 15 ×タカ 0 Eh=15xp+0x(1-p)=15p タカ派の個体 ×ハト 50 ×タカ -25 Et=50xp+(-25)x(1-p)=75p-25 15p=75p-25 p=5/12 Eh=Et=25/4 (ハトばかりの世界だと Eh=15) 鳥たちの事情 メス 「はじらい」プログラム 交尾までに長期の求愛行動を要求 「尻軽」プログラム ただちに交尾 オス 「誠実」プログラム 長期の求愛を続け、交尾後も子育てに協力 「浮気」プログラム メスがすぐに交尾に応じなければ、別のメスを探す 交尾後もすぐに別のメスを探す 子孫が無事に育った 15 子育ての代価 −20 求愛による時間の浪費 −3 誠実♂ × 恥じらい♀ 両者とも 15+(-20)/2 +(-3)=2 誠実♂ × 尻軽♀ 両者とも 15 + (-20)/2 =5 浮気♂ × 尻軽♀ ♂ 15 ♀ 15-20=-5 浮気♂ × 恥じらい♀ 両者とも 0 恥じらい♀/尻軽♀ 5/6 1/6 誠実♂/浮気♂ 5/6 1/6
R・ドーキンス 1991(1976)『利己的な遺伝子』(日高敏隆他訳)紀伊国屋書店より第九章「雄と雌の争い」pp.224-263.
メイナード・スミス 1985『進化とゲーム理論』寺本英・梯正之訳、産業図書
J・フォン・ユクスキュル 2005 『生物から見た世界』日高敏隆他訳、岩波文庫