講義メモと参考文献


第七回講義

前回のまとめと補足

シンボル記号獲得がもたらしたもの
 
分類された世界
  ↓
(1)行動のプログラミング方法の変化

    今ここに含まれるインデクス記号に基づいて、行動
                                ||
                            行動を誘発することを主たる機能とする記号

        

    状況をシンボル記号=分類によってとらえて、行動
                    ||
                  指示対象について思い描き考えることを主たる機能とする記号


(2)分類された世界への依存
           世界を分類し、それに基づいて行動している
           大人だから、女だから、etc.

           分類の仕方は必ずしも一様ではない→異なる文化=異なる分類

(3)分類の原理
     ものどうし(「項」)の類似性 と 「関係」どうしの類似性

         グループ作り
            「項」の類似性
                似たもの同士を集める
                 ↓
                日用的分類



            関係性(アナロジー)
               「関係」の類似性
                 ↓
                象徴的分類



(4)言語を作る2つの規則性との関係
     似たものはなぜ似ているのか

     2つの規則性
          同じ「仲間」どうしの規則性(代替可能性)
          記号どうしの結合の仕方の規則性(隣接性)

隠喩の軸と換喩の軸

    類似したもの同士をむすびつける連想=パラディグム連想
                       同じ仲間に分類された項目同士の連想

     隣あわせに関係するもの同士を結び付ける連想=シンタグム連想

     アナロジーと象徴的分類
analogy


(5)2つの規則性への注目が意味の網の目を張り巡らす意味づけされた世界
          猫は夕日をみて感動するか

   朝日    / 夕日
   日の出 / 日没
   誕生    /  死
   春      /  冬
               再生のための死

髪の毛の意味
   長髪  /  短髪
   反体制    体制
   反抗     従順
   革新     保守

   (ジャコバン/王党派
    進歩   /保守  )

   バサラ        髷    剃髪
   伸ばし放題の髪   秩序   僧侶
   無秩序
    聖(穢れ)         俗        聖(清浄)

 

分類と穢れ

「汚れ」とは何か

きたないものをめぐる奇妙さ

ユダヤ教と豚肉の禁忌

レヴィ記・第11章

「1 エホバ、モーセとアロンに告げてこれに言い給はく
2 イスラエルの子孫(ひとびと)に告げて言へ地のもろもろの獣畜(けもの)のうち汝らが食(くら)ふべき四足(けもの)は是(これ)なり
3 凡て獣畜のうち蹄の分たる者すなはち蹄の全く分たる反芻者(にれかむもの)は汝等これを食ふべし....
7 猪(ぶた)是は蹄あひ分れ蹄まったく分るれども反芻(にれかむ)ことをせざれば汝等には汚れたる者なり
8 汝等是等の者の肉を食ふべからずまたその死體(しかばね)にさはるべからず是等は汝等には汚れたる者なり」(「舊新約聖書」日本聖書協会 1985)

さまざまな解釈の試み

紀元前後のユダヤ教学者フィロ・ユダエウス

「立法者モーゼは、豚とか鱗のない魚とかのもっとも美味で脂肪の多い肉をもっている動物を、しかも陸、海および空のそういった動物を、すべて厳しく禁じたのであるが、それは、この種の肉が五感のうちもっとも卑しい味覚を虜にして、大食の罪を生むことを知っていたからである。」

12世紀のユダヤ神学者・医学者マイモニデス

「私の考えでは、<律法>によって禁じられた食事は不衛生なのである。禁止された食事はすべて、豚肉と脂を除けば、有害な性質をもっていることは疑いない。しかし、この二つの例に関する限りは疑問が残る。というのは豚肉は人間の食料としては必要以上の水分と、不必要な物質とをきわめておく含んでいるだけだからである。」
医学的物質主義

ドライヴァー(19世紀)

「しかしながら、清らかな動物と汚れたる動物との境界を決定する原理は述べられておらず...あらゆる場合にあてはまる唯一の原理は現在まで発見されていない」

参考資料新共同訳聖書における記述

禁止の意味(Mary Douglas『汚穢と禁忌』)
leviticus class levitics ben


動物の分類と
牧畜民にふさわしい食べ物

	分類から外れたもの→汚れ


イギリスにおける食物禁忌と動物分類:宗教的戒律は理解不可能
            犬、猫、馬 / ウシ、羊
           ねずみ、害獣 / ウサギ etc.

ドゥルマにおける汚れた肉
           犬とハイエナ
           バブーンとサルの仲間

animal taboo

汚れと境界性

身の回りの汚いもの

自己/外部 → 汚れの基本構図



 聖  /  俗  / けがれ

   清らかなもの/ふつう/汚いもの

      日常性/非日常性
           +の超出
           −の超出

        +/− の逆転の可能性
    もっとも「穢れた存在」→もっとも「清い存在」
                                日常性を越えた力
                                

穢れの忌避反応


           進化の過程で獲得した生得的プログラムとしての忌避反応
                                            生存に有利な遺伝的プログラム
                    しかじかの徴(インデクス)を探知したら避けよ
                              ↑
                              ↓
            分類システムによってインストールされた文化的プログラム
                  分類不可能なものに対する、不気味、落ち着きの悪さ
                    これこれのものは汚いから避けよ


            
         生存上危険なものに対する忌避反応→分類境界マーカーと結びつく
                                       ↓
    「本当は」(生存に害があるという意味では)「汚くない」ものが
    「汚い」とされるという奇妙さ
     

         学習された区別
          「汚い」と教えられることによって、禁止されることによって
          忌避反応するようになる

          言語プログラムを通じて忌避反応をチューン
            

参考文献

今週のテーマについて考えるために

浜本満、1994、「けがれ:「きたなさ」の正体」『人類学のコモンセンス:文化人類学入門』第7章

E・R・リーチ、1976、「言語の人類学的側面:動物カテゴリーと侮蔑語について」諏訪部仁訳『現代思想』Vol.4(3):68-90

P・ボイヤー, 2008, 『神はなぜいるのか』鈴木光太郎、中村潔訳, NTT出版

M・ダグラス、1985、『汚穢と禁忌』塚本利明訳、思潮社

D・デネット, 2010, 『解明される宗教:進化論的アプローチ』阿部文彦訳, 青土社