講義メモと参考文献


第二回講義

進化のなかのヒト:文化はどこから?

前回講義のおさらい

ヒトの進化と文化

  ヒトの生物学的(身体的)進化と文化の相互依存
プログラムとしての文化という考え方から、この問題に迫ってみる

霊長類としてのヒト

ざっくり図

ホミニドへの進化

霊長類の共通属性

	樹上生活
	拇指対向性
	四肢関節の可動性
	草食性
	顔面角、平顔
	大きな脳
         ↓

ヒト化
	二足歩行
               S字状脊椎
               広く深い骨盤
               頭蓋の重心は背骨の上に、項筋の退化

	雑食性
               小さい歯と顎
               側頭筋付着部の低下
               大きい顔面角
          
               さらなる大脳化

ヒトの祖先たち

from "Mankind and its Relatives ? Modern Homo Species"

類人猿から猿人類へ
ヒトは600万年前チンパンジーと別れ類人猿から猿人類へ

最古の人類化石:440万年前のラミダス猿人
アルディ(ardipithecus ramidas)
エチオピア
身長 120cm 体重 45〜50kg
300〜350cc (チンパンジー 350〜400cc)

不完全な二足歩行
  土踏まずなし、
  拇指対向(物をつかむことのできる親指)、
  膝を伸ばしきれない(直立でいるために筋力を要する)
  短い大腿骨
      足が左右に開いている→体を大きく左右に振らねばならない

  骨盤は二足歩行に適応

森林地帯

アファール猿人(アウストラロピテクス・アファレンシス)
400万から300万年前、
東アフリカ、
まだ不完全な二足歩行
    土踏まずのアーチあり
    拇指は平行
    左右の足の開きは小さくなっている

ルーシー
     ほぼ全身の骨格が残されており、身長1m、長い腕、短か目の大腿骨、厚い胸
     脳容量は400mlほどで類人猿並み、類人猿と同様の体毛
     まだ木登りに適した体形(二足歩行は可能であったが、まだかなりの
     時間を木の上で過ごしていた。

次第に開けた土地での生活     
     アウストラロピテクス・アフリカヌス
     アウストラロピテクス・ロブストゥス
     性的二型 オスはメスのサイズの1.7倍

ホモ・ハビリス
約230万年前、
600cc、石器(オルドワン石器)
       石と石をぶつけて割っただけのもの
    動物解体、骨髄を取り出して食用


ホモ・エルガステル
約160万年前(850cc)
完成した二足歩行
      長距離を歩いたり、走ったり、跳んだりできる

トゥルカナ・ボーイ(11歳)
音声言語はもたない(胸部脊椎の肥厚なし)
図1 図2

打製石器(ハンドアクスとクリーバー)
       複雑に両面を加工しており、計画性を要する精巧な石器。
       しかし変化せず150万年間も同じ形で使い続ける。
       分布

   性的二型の縮小 オスはメスの1.3倍〜1.5倍
   脱アフリカ

   ホモ属(ホモ・エレクタス)、アジアに展開→
   北京原人(シナントロプス・ペキネンシス 850〜1300)、
   ジャワ原人(ピテカントロプス・エレクタス 775〜900)

   ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルタレンシス)
         ヨーロッパ型のホモ・エレクタスの末裔
               約20万年前登場。脳容量は約1500mlで現代人のサイズ(約1400ml)
               より大きい。

ホモ・サピエンス:14万年前
   アフリカ起源説と多起源説がある。今のところ前者が有力。
   脱アフリカ
   地球上に広がる→現生人類
   オスはメスの1.1〜1.2倍

   文化のビッグ・バン(3-6万年前)
   石器が100万年以上続いた剥片型から刃を持ったタイプに。多様性の出現
   骨角器、装飾品、壁画、etc
   

ヒト科の400万年をカレンダーにたとえると



2000万年前  2012年  プロコンスル
600万年前   2016年  7月1日   ラミダス猿人 
400万年前   2017年  1月1日   アファール猿人
240万年前               4月26日 ホモ・ハビリス
160万年前               8月7日   ホモ・エレクトゥス
14万年前             12月17日  ホモ・サピエンス
1万年前              12月31日午前2時  新石器革命
6000年前             12月31日午前11時 古代文明


「ヒトの生物学的進化と文化を考えるうえでの三つの謎」

  1. 直立歩行: なぜ立ったのか
  2. 大脳化: なぜ大脳化したのか
    直立歩行と大脳化の矛盾
  3. 文化:文化と大脳化の関係は?

霊長類とヒトにおいて大脳化が意味するもの


   図1 微妙な「大脳化」(T・ディーコン 1999:176 より)

         オットー・シュネルの相関

   図2 胚段階からの脳/体成長曲線(T・ディーコン 1999:194 より)

         霊長類の「大脳化」は、脳成長の速度の差ではなく、体成長の遅滞の結果

   図3 ヒトは超未熟児?(T・ディーコン 1999:197 より)


参考

生物としての情報ギャップ(C・ギアーツ)

「身体が命令するもの(本能=生得的プログラム)と、機能するためには知らねばならぬものとのあいだには、我々自身で埋めねばならぬ真空地帯があり、われわれはそれを自分の文化の提供する情報(あるいは誤報)によって埋めるのである。」

生き物としてのヒトの奇妙な特徴
    大きな脳                                 未完成の身体
      (後からさまざまなプログラムを  /   (そのままでは適応のために
        インストール可能)                   必要な行動プログラムがまだ
                                             そろっていない)

    このような生物が登場してくるためには、すでに外部プログラムが用意
    されていることが前提
    ↓
    外部プログラムとしての文化

    外部プログラム(後からインストールされるプログラム)依存型の生物

  →ヒトが文化を作り、文化がヒトを作った

【Q】急激な大脳化はなぜ起こったか

ドーキンス:ムーアの法則(大脳版)

ハードウェア(大脳)/ソフトウェア(プログラム)共進化
 ↓
 どんなプログラムが?

   ドーキンズの仮説→

   hand axe の意味 =多目的道具(スイスアーミーナイフのような)
                      投げることもその用途の一つ
                   ケニア大地溝帯オロガサリエ遺跡(円形に近い=killer frisbie)
                   ワシントン大学カルヴィン教授ら
                   

  

参考文献

宝来聰1997「DNA人類進化学」(岩波科学ライブラリー52)岩波書店

C・ギアーツ 1987(1973)「文化の解釈学I」(第二章)吉田禎吾他訳(岩波現代選書118)岩波書店

r A・ポルトマン1961(1951)「人間はどこまで動物か:新しい人間像のために」(岩波新書433)岩波書店

T・W・ディーコン 1999(1997)「ヒトはいかにして人となったか:言語と脳の共進化」金子隆芳訳 新曜社より「第5章、第6章」

R・ドーキンス 2001『虹の解体 : いかにして科学は驚異への扉を開いたか』福岡伸一訳、早川書房

S・ミズン 2006『歌うネアンデルタール人:音楽と言語から見るヒトの進化』 熊谷淳子訳、早川書房