講義メモと参考文献


第九回講義

ギリアマの反乱(1)
:背景

今回の講義の目的

深刻化する労働力不足を背景に、後背地人口の賃労働者化の圧力がさらに高まるなか、イギリス人行政官による後背地へのより積極的な働きかけが始まる。それはやがてギリアマ人たち(ミジケンダ最大の人口)の反乱を導くにいたる。この過程で、イギリス人行政官の植民地的想像力が現地の人々の想像力とどのように交錯し、事態を悲劇的な衝突にまでおし進めていったのかを検証する。

反乱の背景

コーストの労働問題

1912 年、モンバサでの労働需要はきわめて深刻な状態にあった。
ミジケンダ、とりわけ最大人口のギリアマを賃労働者化することが植民地統治上の至上命令

植民地総督 Henry Belfield (1912年に赴任)植民地議会においてミジケンダ(特にギリアマ人)を名指し

ギリアマの当時の経済状態/植民地行政の見解

         ギリアマ人自身の状態
             経済的繁栄→1912年の旱魃と飢饉にも耐える
             かつての奴隷人口を吸収→人口増加、生産力アップ
             アラブ人が管理を放棄した肥沃な海岸部への進出
             サバキ川北岸のブッシュへの進出

         植民地行政の見方
             ギリアマは与し易い相手(協力的)
             賃労働者化することによって経済的な恩恵をあたえてやれる

登場人物

Charles W Hobley (1867-1947)

1912 コースト・プロヴィンスの長官(PC)として赴任

ギリアマがなぜ賃労働者化しないのか→

「ギリアマ内部の伝統的権威が弱体化」→ギリアマの長老たちに力を取り 戻させてやることによって改善できる

「いかなる部族も自分たちの土地に対する権利を有している」→「居留地」への介入と増税に反対

Arthur Champion 1912

後背地における初のイギリス人行政官

二つの課題→税金の徴収+労働者の獲得

精力的にサファリ、駐屯所の設立、人口調査、ヘッドマンの任命、象牙取り引きの取り締まり

北部ギリアマのマンゲアに駐屯所を設立

チャンピオンの提言

  1. ギリアマの賃労働者化に懐疑的
    「ギリアマは労働者にはなれないだろう。彼らはあまりにも自主独立の気風が強く、また保守的である。増税は、単に女性たちに更なる負担をかけるだけのことになる」
    「税金を課しても、彼らにはそれを払うだけの力がある。それは彼らを労働には向かわせない」
  2. ギリアマ農業振興→灌漑と道路整備、商品作物導入
ホブリーはこれを却下する

ギリアマの否定的反応

チャンピオンが一生懸命になればなるほど、ますます非協力的
「ギリアマには我々や政府に対する『尊敬の念』が足りない」

反乱への道

ホブリーの巡回 1913年6月

巡回の意味したもの

「ホブリーは paternalist であった。ギリアマの保護者であると考えていた。彼はギリアマにとって何がベストであるかを自分が知っていると思っていた。彼はヘッドマンたちにギリアマを文明へと導く役割を期待していた。」
植民者や資本の側からの圧力によるせっぱ詰まった経済発展・労働力確保の必要に押されての行動であるのに、ギリアマの人々のためになると考えられ続けている

しかしギリアマにとっては、これは単なる高圧的な脅威


チャカマ事件 1913年8月

若者のあいだに反抗的態度→警官の発砲による一人の若者の死→複数の若者逮捕、60頭の山羊接収

ギリアマとイギリスとの観点の相違
植民地的想像力の模倣の合わせ鏡

「力による示威行為」の双方における意味

行政側の解釈 ギリアマ側の解釈
ギリアマ側の示威 聞き分けのない生意気な反抗
未開人の非理性的な凶暴性の証明
処罰の対象
行政側の手法の模倣
単にチャンピオンを怖がらせることが目的
行政側の示威 聞き分けのない「未開人=子供」に対する教育的体罰
未開人の手法の模倣
理不尽な要求を脅しによって行うのが西洋風のやり方

参考文献

Brantley, C., 1981, The Giriama and Colonial Resistance in Kenya, 1800-1920. Berkeley: University of California Press

Taussig, M., 1993, Mimesis and alterity : a particular history of the sensesNew York: Routledge.

Willis, J., 1993, Mombasa, The Swahili and the making of the Mijikenda. Oxford: Clarendon Press